ジョイント合宿共通テーマ「自治体間の政策を比較する〜格差と競争の時代〜」

高齢者にやさしい中心市街地へ

宇都宮大学 国際学部中村祐司研究室

加藤 沙織

齊藤 香織

高野 貴美

1章 問題の所在

1.1なぜ、中心市街地なのか?

 中心市街地は誰もが利用する一種の市民拠点であるといえる。私たちが暮らしているこの宇都宮市でも同様に中心市街地は市の要である。県庁や市役所、商店街に駅など様々な都市機能が集中しているのが中心市街地であり、その存在は市民にとって重要なものだ。しかし、いかに重要な市民拠点であってもそこまでのアクセス方法や土地利用のやり方に不備があると利用しにくい。現在はまさにその状態であり、中心市街地の中を快適に安全に回れるかというと疑問である。

 その中でも特に高齢者を中心市街地であまり見かけないのはなぜか。その理由を考えると、 アクセスが難しい・安全面に問題があるのではないか、という点が挙げられた。高齢者は移動手段が限られてくるため郊外の大型店などの遠いところには行きづらい。また高齢者は市役所や文化センターなどの施設も利用する。そのような行動範囲を考えるとやはり中心市街地は高齢者にとって行き来しやすく、かつニーズを満たせる場所でなければならないのではないか。そこで私達は高齢者が安心で快適に中心市街地内を移動するための提案を行いたい。


1.2比較対象の説明

 今回私たちは栃木県宇都宮市との比較対象都市に、群馬県前橋市と茨城県水戸市を選んだ。  その理由は以下の3点に言及することができる。

 まず3都市とも県庁所在地であり、その中心市街地の内部もしくは周辺に行政機関がそろっている点である。中心市街地における商業施設や公共交通機関とのバランスも含めてこれらの条件がそろっていることは、土地利用の観点から比較するのに非常に便利であると判断した。

 次に前橋市も水戸市も宇都宮市と同じく、市民の高齢化が年々進んでいることが挙げられる。後述の資料に示されるとおり、各市の高齢者人口は数、比率ともに年々増加の傾向をたどっており、これらの人々に対する市独自の安全対策やサービスが展開されている。これを比較することにより、宇都宮市の高齢者の人々にとってさらにプラスとなる安全対策やサービスが導き出されると考えた。

 最後に、3県は共に北関東に属し、首都である東京までほぼ同程度の距離や移動時間を有している。いわゆる地方都市であり、抱える人口も各市の土地面積で比較すればあまり大差がない。よって経済的にもほぼ同等の条件がそろえられていると思われる。

 以上の点から、宇都宮市との比較には前橋市と水戸市が最適であると判断し、研究対象都市とした。




1.3比較のねらい

今回宇都宮・前橋・水戸の3市の中心市街地内における道路整備状況・公共交通(バス)の利便性・高齢者に向けたサービスといった点を比較した。

 各都市の中心市街地の現状を調査しまとめ、長所・短所を整理・比較した結果から、私たちが暮らす宇都宮市の中心市街地がどうすれば高齢者にとってよりアクセスしやすく、安全に快適に回遊できる場所になるのか、具体的にどこをどう改善したらよいかを導き出し、今後高齢化が進む中、宇都宮市の中心市街地を高齢者にも優しい場所にすることがねらいである。


  1. 比較都市の基本データ

2.1栃木県宇都宮市の中心市街地と高齢者人口

宇都宮市の中心市街地は、JR宇都宮駅から東武宇都宮駅までの東西に伸びるメインストリートを中心とした320haが『宇都宮市中心市街地活性化基本計画』のもとに制定されている。その重点地区として相当するのが中央地区であり、240haの広さを持つ。南北には市役所や県庁などの行政施設、二荒山神社や宇都宮城址公園などの歴史的建造物が配置されており、東西には商業施設が軒を連ねている。人通りは相当にあり、高齢者の活動時間と思われる11時前後の東武宇都宮駅周辺や商店街は人、車ともに交通が絶えない。

宇都宮市の人口は近年の度重なる合併の影響もあって年々増加傾向にある。平成199月末には507140人に達した。65歳以上の高齢者である老年人口はその20%近くを占め、数・比率ともに上昇を続けている。

出典 平成6年〜17年 「宇都宮市統計データバンク」より高野作成(H17.10.31)


2.2群馬県前橋市の中心市街地と高齢者人口

群馬県前橋市は人口約30万人の中核都市である。その中心市街地は242haと広範囲に及ぶ。そのため前橋市では千代田町1~5丁目をその重点地区と位置づけている。確かにその重点地区には銀座通りやオリオン通りなどの複数の通りが存在し商店街も立地しており人々が行きかう場所になっている。

 前橋市全体の人口は平成199月末現在319680名。そのうち高齢者の数は7万人でその割合は21%に上る。また、下図からも分かるように前橋市も平成6年から徐々に高齢者人口が増加しており高齢化の傾向をたどっているといえる。












出典 平成6年〜17年「前橋市役所統計書住民基本台帳登録人口年齢別人口」

より齊藤作成(H.19.10.30


2.3茨城県水戸市の中心市街地と高齢者人口

茨城県水戸市は平成1971日現在で、総人口263458人、そのうち65歳以上の人数は52970人であり、総人口に対する割合は20.1%である。水戸市役所HP人口データファイルによれば総人口自体も増加していることが分かるが、下図のように65歳以上の人口も年々増加しており、総人口に対する比率も上昇している。

水戸市の中心市街地は水戸駅前から大工町までという約330haの広範囲であり、宇都宮とほぼ同じ広さである。中心市街地のメインストリートは、水戸駅北口から北西に続いており距離は約2450m、徒歩で片道約30分はかかる。平成11年に策定された「水戸市中心市街地活性化基本計画」によると、現在水戸市では、中心市街地活性化に向けて駅前と大工町の間にある泉町を戦略的拠点地区として位置づけ、泉町1丁目北地区の再開発を進めている。











出典 平成6年〜17年 「水戸市役所HP 人口データファイル」より加藤作成(H.19.10.30)




第3章 フィールドワーク調査結果及び比較結果

フィールドワーク調査結果


宇都宮

前橋

水戸

中心市街地の状況

11時時点での人通り

  • オリオン通りの人通りが 多い

  • 駅前大通りにはまばら (平日)

  • 主要大通り→ほとんど いない

  • 歩行者天国内の通り→まばら(平日)

  • スズラン(大型商業施設)に高齢者集まる

  • 大通りは多い。しかし高齢者はまばら

  • 商店街(重点地区)→皆無

道路整備状況

  • オリオン通り、駅前大通り→アーケード、レンガ道

  • 日野町・みはし・バンバ  通りにもレンガ使用

  • 段差なし

  • 歩行者・自転車道の区別 なし

  • 歩行者・自転車専用道路の導入・カラー分け済

  • 中心市街地内は全て歩行者天国

  • 歩道が広い

  • フラワーポットが 歩道と車道を分ける

  • 歩行者・自転車専用道の導入(一部)

バス整備状況

  • 3つのバス会社

  • きぶなは中心市街地を循環

  • ノンステップバスの導入

  • 7つのバス会社

  • 駅前に総合バス案内所

  • 市内循環バス(マイバス)導入


  • 5つのバス会社

  • 駅前に3社の案内所

  • 市内循環バス導入

高齢者向けサービス

・高齢者向けバスカード助成

  • マイバス共通乗車券を中心市街地内の店で配付

  • 敬老バスカード販売(高齢者割引)

  • デマンドバスの導入

・バス・鉄道全線フリー定期券(茨交漫遊パス)販売。65歳以上購入可

中心市街地の安全性

  • みはし・バンバ・日野町  通り→車・歩行者・自転車混在→危険

  • 駅前大通り→坂で勢いづいた自転車危険

・中心商店街歩行者天国  (午前10時〜午後8時)  →高齢者の安全

  • 大通り→歩道が広い→安全

  • 裏路地→狭いうえに車・自転車・歩行者混在→危険

総合評価

・歩行者に対する安全性が低い

・総合的に安全性が高くサービスも充実

  • 大通りの整備はOK

  • 人がいない 



4章 比較して導き出される宇都宮市の課題・問題点

 上記3市でのフィールドワークを通して、高齢者が宇都宮市に求める安全性やサービスとは何かを導き出してみたい。  

 前橋市や水戸市と比べてみると、特に前橋市は中心市街地の中心が歩行者天国化されており安全性は高い。これに対し宇都宮市の中心市街地内には整備が十分でない道が車・歩行者ともに交通量が多いにもかかわらず存在しており、安全性に欠けるという点が挙げられる。例えばみはし通り、バンバ通りなどがそうである。次に、バスの時刻表などの情報は各バス会社が独自に提供しているため、高齢者をはじめとする利用者にとって非常に把握が難しい。駅周辺や大型ショッピング施設などのような場所ではバスの利用率が上がるため一括した情報提供の場があると便利だといえる。

 この現状から私たちは次に挙げる2つの解決策を提案する。

 

5章 解決策の提案

5.1主要中心市街地の歩行者天国化

 高齢者が中心市街地内で利用する場所を考えると、郵便局・市役所・二荒山神社・その他商業施設等が考えられる。そこでそれらをつなぐ道を安全に歩けるよう、交通量の多い十字路(図5-1)を歩行者天国にする。また、3つの通りを歩行者・自転車専用道路に分け、それぞれが通れるように歩道を色分けする。こうすることで歩行者・自転車が分離されるため、自転車とすれ違うということがなく高齢者でも安全に歩行することが出来る。

 一方、現在この通りには市内循環バス「きぶな」が走っており市役所から中央郵便局、日野町通りと移動することを可能としている。このルートは主要な都市機能を回るため是非とも活かしたい素材である。そこで歩行者天国化した通りの走行を前橋のマイバスと同様に「きぶな」と救急車・パトカーなどの特別車輌は走行可能にすればさらに利便性が高くなる。

このような体系を取ることで高齢者は安心・快適に中心市街地を移動することができるだけでなく「きぶな」の利用により市役所・中央郵便局にまで足を伸ばしやすくなる。


5-1歩行者天国の場所…ピンクで表示   歩車分離道路イメージ

5-1 歩車分離歩道(群馬県前橋市)





 宇都宮市観光コンベンション協会

ホームページより


写真5-2中心市街地走行中のマイバス

5.2宇都宮駅西口バス乗り場におけるバス情報整理計画

 高齢者にとってバス利用を容易なものにするということを目的として、現在バス会社ごとに分けられているバス乗り場を行き先ごとに整理しなおし、バス乗り場の会社名、時刻表が表示されているバス停を改装、それに基づき案内板を新しく作り直す。

この事業に伴い、現在は会社ごとにバス情報がまとめられている「バス路線マップ」の表示も、行き先別でまとめて記載する形式に変更する。その際、JR宇都宮駅西口から出るバスと東口から出るバスは別々にまとめる。そうすることで案内板と一緒に配置し、誰でも入手できる状態となる。


  1. おわりに

 今回、3市に渡って、活動・研究を行い最も感じたのは高齢者が使いやすいということはすべての人にとって使いやすいということだ。だからこそ大掛かりな施設などの開発よりも地道な道路整備を長期にかけて続けることが重要なのだと思われる。また宇都宮市は、自動車の保有台数が多いことが示している通り.車が中心の都市である。しかし実際に中心市街地を歩いてみると、それまで気づかなかった魅力を見つけることができた。だからこそ安心して歩ける・歩きたくなるような街づくりができることを私たちは望む。

 中心市街地の衰退や高齢化など、前橋市や水戸市も宇都宮市と同じような悩みを抱えていた。どれも難しい問題だけれども近隣の地方都市同士で刺激しあい切磋琢磨することで高齢者向けのサービスもさらに充実していけばいいと切に願う。



参考文献・資料

<栃木県宇都宮市>

・フィールドワーク (駅前大通り〜いちょう通り〜パルコ)H19.11.7

・宇都宮市役所『統計データバンク』(H19.10.31.)

   『都市再生整備計画―宇都宮中央地区』


<群馬県前橋市>

・フィールドワーク (前橋駅〜中央前橋駅〜銀座1丁目通り)H19.10.17.

保険予防課「健康前橋21」第2章 5市町村の現状(H19.11.21

http://www.city.maebashi.gunma.jp/kbn/Files/1/06400034/attach/maebashigenjyo.pdf

   平成6年〜17年「前橋市役所統計書住民基本台帳登録人口年齢別人口」(H19.11.21.)

http://www.city.maebashi.gunma.jp/ctg/01200113/01200113.html


<茨城県水戸市>

・水戸市バス路線主要図

・ふれあい水戸 中心市街地マップE 発行/南町連合商店会

都市計画部 泉町・大工町周辺地区開発事務所 (H19.11.20)

http://www.city.mito.ibaraki.jp/view.rbz?nd=366&of=1&ik=1&pnp=271&pnp=273&pnp=288&pnp=366&cd=1283


統計年報(平成17年度版)人口データファイル(H19.11.20)

http://www.city.mito.ibaraki.jp/view.rbz?nd=1816&of=1&ik=1&pnp=1544&pnp=1567&pnp=1816&cd=746


統計 関連ファイル 年齢別人口(H19.11.20)

http://www.city.mito.ibaraki.jp/view.rbz?nd=1815&of=1&ik=1&pnp=1544&pnp=1567&pnp=1815&cd=740


・茨城交通HP 水戸市内循環バス・茨交漫遊パス http://www.ibako.co.jp/(H19.11.20)