テーマ:現代日本政治の課題と展望 

日本政治の課題と展望は当然ながら挙げたらきりがない。そこで、本レポートでは数ある課題の中でも政党あり方と中央集権体制の腐敗を課題として取り上げ、今後の展望として地方分権の流れを考察する。

 

1.     政党の存在意義

冷戦の終結によってイデオロギー的な対立が消え、右か左かの論争はあまり意味を成さなくなった。とはいうものの、党の核となる政策、存在理念はやはり必要である。しかしながら日本には政党が多数あるにもかかわらず、しっかりとした「理念政党」が存在していない。自民党は昔から現在まで当選して政権をとり続けるためだけに存在する政党であったし、野党も中道左派と呼べる政党がいくつも並んでいる。野党は政策の違いを越えて団結することも多いし、与党の悪いところをつつくのに始終してしまっている感がある。最大の野党である民主党でさえ、党内の対立があらわで、将来政権をとったとしても自民党と大差なさそうな状況である。加えて、特に最近は無党派層の割合が大きく、いざ選挙となっても有権者は具体的な党政策を判断して投票するというわけでは必ずしもない。むしろ立候補者個人の評価で投票するケースが多いようである。前回行われた参議院選挙の非拘束名簿方式も個人を重視するものであるし、著名な人が勢いだけで当選するケースもよくある話である。裏を返せば、政策は人々に訴えるだけの力を持っていないということであろう。こういう状況を考えると、日本では政党政治が成熟しているようには思われない。今後も日本での政党は議員個人の単なる居場所となってしまうのだろうか。それが日本の色と呼べるものなのかもしれないが、やはり課題として挙げられるべきものである。

 

2.     中央集権体制の腐敗と限界

日本の政治の最大の課題は政治の腐敗、つまり政治家、官僚、企業の癒着であろう。自民党が常に国会議員の多数をしめ、族議員と呼ばれる議員が官僚に口を出し、企業から献金を受ける。公共事業がある意味地方を支え、その中心に議員と官僚が居座る。この弊害はかねがね指摘されている。政治が利権の場と化してしまっているわけだが、この利権があるがゆえに自民党は何より政権にこだわってきた。与党となるために、政策的には正反対である社会党とでさえ手を組んだ。内閣一元が守られず、族議員の利益に沿って国の政策が運営される構図はいち早く改めねばならない。

権力による腐敗とともに、現在の日本の政治は閉塞的な状況にあるといってよい。国民の政治不信は高まる一方であり、一国のすべてを中央が引っ張っていく時代は終わりを告げたかに見える。その原因はいくつかある。日本の場合民主主義的な政治が始まったのは戦後からである。1990年くらいまでは順調な経済成長の下、経済の中心として政府は機能してきた。ある意味大きな政府であった。しかしながらグローバル化が進むことで最近は政府が市場に対して果たせる役割が減り、その無力さが目に見えてきている。国民の間には、政府があってもなくても変わらないというイメージが漂っている。また、道路の建設などのインフラ的なものがほぼ整い、福祉、環境対策などのこれまでとは違う仕事が出てきた。こういったものは政府だけで解決できる問題ではない。政治のいわゆる「ムダ」が多数出てきていることは、これまで変わらず行われてきた政治の限界を示すものともいえるのではないだろうか。

 

3.     今後の展望の鍵となる地方分権

政治腐敗の元凶であった中選挙区制は廃止され、効果はまだはっきりしていないものの、選挙制度は改革された。しかしまだ腐敗の構造は改善されていないようである。自民党が権力の中枢にいる限り、大きな変革は訪れないだろう。

これからの政治の鍵、改革の鍵は地方分権であると思われる。現在までの政治の腐敗は中央主導、官僚主導によるところが大きすぎたためである。地方選出の国会議員は利益誘導をしなければ支持されない。官僚の仕事は一つ一つに対して責任が不明確であり、必ずしも国民の利益に沿う政策を実現させてきたわけではない。また人口も12500万人と、ひとつの集まりとしてやっていくにはかなり大きな規模である。

地方のことはその地方で決める。地方分権の考え方は日本人の考え方にあっていると思われる。今なお「お上」意識は強く、遠い存在となっている。中央の政府が無ければ無いなりに日本人は地方でそれなりにやってきた歴史を持っている。しかし、かといってイギリスのように市民自治が培われているとは到底言いがたい。となると、中央の関与を縮小した形の地方自治体強化が適切なところであろう。情報公開も一般的になり、市町村ごとにホームページも開設されたことで、今後は以前よりも透明性が確保された自治体になっていくことは間違いない。少なくとも地方分権は理念なき政党の存在、政権のうまみといった中央政府の問題点を軽減する働きに十分期待できる。政府が経済の牽引役ではなく、福祉、環境保全国家を目指すのであれば、地方に根ざした政治を行うほうが効果は高い。政府は他にも外交、立法などやるべきことがまだまだある。大切なのは政府のスリム化である。繰り返すが、政権のうまみ、官僚制の腐敗、その他もろもろの問題の原因となっているのはあまりに強い影響力を持つ中央政府、官僚制の存在である。地方分権とともによく話題になる民営化も、この権限縮小の考え方によっている。

地方分権は現在の閉塞感を打破する力があることは知られている。しかしながら、課題は地方分権そのものではなく、その前にある。それは、十分な地方分権を実現するにはやはり中央の支持がなければならないことである。今まで形成したものを壊す勇気があるのか、利権を握るうまみを手放す意思があるのかが、この論議に課せられた当面の課題であろう。