国際学部国際社会学科3年    000104A    板倉世典

小野善康著 『景気と国際金融』  岩波新書、 2000 の書評

 

この本は複雑な国際金融の構造を明らかにし、景気の国際波及や基軸通貨の問題を論じて、今後の展望を左右する視点を示している。国際経済についてある程度の知識がないとこの類の本は読みにくいものだが、この本は具体的な例を挙げることによって、初心者にも分かりやすい内容としている。また、主にマクロ経済学からの視点で、比較優位、時間選好などを用いながら、細分化しがちな経済の見方の整理、統合も図っている。為替や貿易などの国際取引に関して、ほぼ日米関係のみを扱っているのは、読者が理解しやすいようにするためだろう。

書の構成は、国際金融、為替レートと景気、経済政策の国際波及、国際化するバブルと景気、為替管理と円の国際化の5章からなっている。

1章では、資産移動のストックと貿易取引のフローとの違いを明らかにし、国際収支の決定、資金流入、流出の誤解等を解説しつつ、国際金融の性質を論じている。

2章では、円高はどのようにして進むか、なぜ平成不況下で円高が加速したかを述べている。従来の為替レートの決定に関する考え方と、現在の不況下の「マクロ・ダイナミクス」による考え方を比較している点も面白い。また、好況時と不況時では、全く行うべき経済への対応が異なることを強調している。そして同時に、古典派経済学に基づく、昨今の供給面からの景気対策が誤っていることも指摘している。

3章では、公共投資の効果や意義を説明し、不況下の公共投資は、余剰生産力を有効に使うことで、好況時よりも低コストで事業が進められることを挙げて、景気対策以外にも意味があることを述べている。また、需要の喚起が為替レートとどう関係し、景気を回復させるかも述べている。近年削減されている途上国への援助政策が、失業が多い不況時に逆に行うべきだという論説も興味深い。

4章では、株価の動向はどう捉えるべきなのかが述べられ、株価はファンダメンタルズを反映しておらず、投機によるバブル的なものであり、逆に経済実態が影響を受けることを解説している。また、その資本投資がどのように国際波及し、影響を与えるかも明かしている。

5章では、円が国際化、基軸通貨化するには何が必要か、国際化したら何が良いのかについて書かれている。

経済の動きは毎日報道され、専門家、政治家がそれに対して対応を論じているが、実際には誤解や混同がよくある。この本は、よくあるその誤解を逐一提示しながら、なぜ誤っているのか、正しい見方は何かを明らかにしている。これは、大量に入ってくる経済情報を見極める上で、大変役立つものと言えよう。大変よくできている本であると思う。強いて問題点を挙げるとすれば、景気をメインテーマに据えながら、短期的な景気変動に関しては何度も書かれているものの、長期的な景気循環と国際金融との関係に関する記述が欠けていることがあろう。ともあれ、学生は一読すべき本である。