行政学演習Ａ　中間報告第3回　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2002/06/17

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　国際学部国際社会学科3年

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　000104Ａ　 　板倉世典

本レポートの位置づけの再設定

　当初は開発途上国も含めた水道事業のあり方、先進国との比較を考えていたが、途上国の資料の少なさを考慮し、先進国の例を深く見ていくことによって、水道事業のあり方を探るという方向性にする。幸い、宇都宮市の豊富な資料に恵まれ、国内の水道事業はある程度の統一性をもっている。また、日本の水道事業は世界的に高水準にある上、人々は水道意外に頼るべき水がないこと、国民が「水」に対して特別な思いを持つ国であること、水資源には一人当たりで見ると必ずしも恵まれている国ではないことなど、多くの調査に値するベースを持っているサンプルだと思われる。

　水道行政は公共の利益と企業体制の両面を持っているという少し変わったものである。そこで、水道行政ならではという企業努力、住民との関わり、料金などを中心に見ていけば面白いと思う。

確定テーマ：企業体制に基づく水道行政の努力

�@行政の公共の福祉としての側面からの努力、�A独立採算制を持つ経営体としての努力、�B安全性などのＰＲ、信頼醸成等への努力

読んだ本

鈴木紀雄著『エコロジカル・ライフ　飲み水を考える』家の光協会，1994

　専門書というよりは一般市民に向けて水道水の安全性、水のはたらき、水源保護、自然との共存などについて書かれた本。やや一般的過ぎて、レポートの直接の参考書には不向きだと思った。

小林康彦編著『水道の水質の保全』技報堂出版，1994

　日本と欧米各国の水質保全対策に関して詳しく述べている本。

（p144〜p154から抜粋）

　ヨーロッパの水道水源対策の特徴として�@導水距離が遠くても良質な水源を求めたり、丁寧な浄水処理を行ったりしている。�A地下水や湧き水を中心に区域を設定した水源保護を行っている。�B農業による環境汚染対策と関連して窒素肥料規制や農薬規制の実施が見られる。水道事業はもともと地域住民が主役となり、極めてローカルなものとして扱われてきた。国家がリーダーシップを取って水道行政を行ったのはごく最近、1970年以降である。これは、もはや地方任せで総合的、統一的取り組みなしには安全で信頼性の高い水道システムは維持できないとの認識からである。その危機感の中心が水質汚濁、環境汚染である。　

　水道は地域に即して整備され、運営されてきたので、その形態、理念、運営についてはさまざまであり、国内部でも異なることもよくある。

日本：市町村営が原則。都県営あり。水道用水供給事業は府県営または企業団。

英国（イングランド・ウェールズ）：民営。

英国（スコットランド・北アイルランド）：公営。

フランス：水道施設は市町村所有、管理は民間会社へ委託が主流。

ドイツ：地域社会での設置、運営。

スイス：市町村の設置、運営。

アメリカ：地方自治体直営、企業団方式、民間会社営。地域の歴史と判断による。

経営原則は各国とも独立採算制が原則。

給水量は各国によって大きな差がある。一日一人給水量スイス402ℓ、ベルギーは166ℓで2.4倍。理由は明確に説明できない。

水道料金は各国で大きな差があり、国内でも格差が大きい。日本は中位。

各国とも地下水の最大限の利用を念頭においている。地表水の利用は次善の選択。日本は地盤沈下などがあるので地表水7割、地下水3割である。

水道と地球環境を考える研究会編『地球環境時代の水道』技報堂出版，1992

　水道と地球環境という視点からかなりユニークな提案をしている。とりわけ地球温暖化問題に焦点を当て、エネルギーについて詳しく述べている。

　平成２年度で総電気供給量の1.1%が水道関係で使われている。省エネルギー化が必要。

第5章要約

　欧米並みの直結給水を日本にも行うべきである。日本の3階以上の建物のほとんどは受水槽を設置し、ポンプでそこから屋上の高置水槽までくみ上げてから配水している。東京都の場合給水量の約半分が受水槽を経由している。しかし、この方式は受水槽内部の清掃が行き届かない、水温が上がる、残留塩素が消失する、異物が混入するなどで衛生面に問題がある。管理は設置者にあるが、水質の保持は難しい。そして、省エネの面からも、水道管内の水圧を無駄にしているのでよくない。これほど受水槽が普及している国は欧米では例外である。直結給水は途中でポンプが入って増圧する「直結ポンプ給水」とポンプがない普通のものがあり、これを仮に「直圧給水」と呼ぶ。直結ポンプ給水はまだ日本では認められていない。（現在は？）・・・『水道課』（ｐ78）によると、建物の階層に関係なく、次の場合には受水槽式給水が必要になる。�@需要者の必要とする推量、水圧が得られない場合。�A一時に多量の水を必要とする場合。�B配水管の水圧変動に関わらず、常時一定の水量、水圧を必要とする場合。�C災害、事故等による配水管の減断水時にも、給水の確保を必要とする場合。�D薬品を使用する工場など、逆流によって配水管の水質に影響を与える恐れのある場合。・・・日本に受水槽が多い理由は、水道の普及が急速に進んでいた当時に、新設の3階建ての建物のためだけに水道の水圧を上げるわけにはいかなかったという仕方のない事情があった。しかし今は当時と異なり明確な理由がない。

自治体は3階建てまでの直圧給水を進めている。しかし、それ以上の階は、より高圧にするか、ポンプを導入するかの選択になる。前者は電力量、漏水などを考慮すると好ましくない。したがって、「直結ポンプ給水」を採用すべきである。すべての設備更新はすぐには難しいから、当面は受水槽、または高置水槽をバイパスする形がよい。

　余剰の水圧で発電を行ってはどうか。水道施設において自然流下により水輸送が行われている管路では、地形的な条件から必要以上の高低差がある場合、余剰水圧が発生する。例えば河川上流のダムから直接取水し浄水場へ自然流下で導水する場合に余剰水圧が生じやすい。発電を行うのに有利な条件は、水量が安定しており、量的に豊富であることの２点である。導水、浄水、送水系統ではこれを満たすことが多い。この電力を浄水場などで自家使用する、もしくは電力会社に買ってもらうとよい。これはすでにいくつかの自治体で実施されている。札幌市水道局藻岩浄水場のケースでは2.1億円をかけて整備し、年間3000万円分を発電。

第6章要約

水道水を暖かくしてはどうか・・・飲料水以外は温かくして水を利用している。しかも飲料水として用いる水量はわずかである。ではその水道水を清掃工場からの廃熱や、下水道からのエネルギーで暖めてみてはどうか。冬でも暖かい水道が実現する。こういったことを実現するには縦割り行政を克服した取り組みが必要である。

6/13日に宇都宮市水道局総務課企画財政係の篠�ｱ雄司さんに話を伺った。

・ 水道事業で大変な点は何か。

独立採算制であり、経営と拡張を両立させるのは大変で経営的に厳しい。また、水道が

敷設され始めてから86年目になり、更新が必要だが、その費用もかかる。料金収入が伸び悩む中で、将来浄水費用がさらにかかる可能性がある。

消費者の約２５%が水道水の安全性に不安を持っている。安全対策にも意識して取り組む必要がある。安全性のPRにも力を注いでいる。

収入と安全供給のバランスに留意。簡単に料金は高くできない。

・ 現在宇都宮市は第6期拡張計画を進めているが、それはなぜか。

平成13年度末現在で河内町を含めた水道普及率は９７．３１％である。第五期拡張ま

ででは依然足りない。拡張は単に管を増やすだけではない。施設の更新も含む。平成11年に当初計画の見直しをして少し縮小した。額にして約100億円。今回の拡張はこれまでのものとは少し異なり、震源対策用貯水池、施設の拡張などが含まれている。

・ どうして県から水を買っているのか。

鬼怒川の東にわざわざ橋渡しをするよりコスト的によいのではないかと考えた。板戸には県の浄水場があり、市の配水場に流している。設備が一ヵ所ですむので市町村がやるよりも県がやって分配したほうが効率がよい。

・ 水道料金はどうやって決めているのか。

（板倉の）ホームページと同じ。日本水道協会が研究を引き受け、それによって料金を決めている。水道料金体系は複雑で分かりにくいので簡単にすべきという意見があるが、より安く、合理的な料金にするには複雑にならざるを得ない。今の制度は合理的である。

・ 口径が小さい世帯（13〜25�o）の０㎥〜２０㎥まで水道料金が一緒なのはなぜか。

電話とは逆の方式で、使えば使うほどかかるという方式になっている。（私は料金表の見方を間違えていた。実際は使った量に比例して課金される。）なぜ基本料金を一定量かけるかというと、減価償却費など、使用量に関わらずかかる費用をまかなうために設けてある。口径が小さい世帯はこの基本料金しか２０㎥まではかけない。これは家庭、生活者を配慮したサービス的なものといえる。ほとんどの世帯は25mm以下である。この料金設定は4人家族という一般的な家庭が安く上がることを想定しているので、１人暮らしの人は少し損をするかもしれない。しかし、従量料金がかからないゾーンを増やそうとした結果、現在のところが最もよいとなった。この設定は絶対的なものではないので、見直すことが必要になることもある。

・ 都市の周辺部への水道管敷設に対しても、すでに敷設されている都市部の人がその建設費を負担するという考え方については。

水道敷設は公共の福祉と企業体制という正反対のものを両立させねばならない。水道の

普及率は１００%を目指さなければならないし、実際目指している。そうすると、一キロ延長しても数戸にしか拡張できないという経営的に不合理な状態が起こる。これは企業努力だけでは難しい。こういったことに全市民を巻き込むのは問題があるということで、平成13年からまだ水道管が通っていないところへの敷設はその費用の半分を市の税金からもらうようにしている。

・ 今回の料金改定はどうしてあれほど早くできたか。作業は一年がかりだと聞いたが。

従量料金の見直しが今回なく、体系はそのままであったから。すべてを1.8％引き下げた。今回の引き下げは県から水を買うお金が安くなったからだが、その浮いた分が年２億円だった。これをためておくのか、料金を引き下げるのか意見が二つ出た。公平性を考慮して外部の意見も入れて話し合った結果、引き下げるべきという意見が大勢を占めた。

平成8年の改定のときは1年かけて全体を見直した。

・ 水道民営化は可能か。

部分受託できる会社もたくさん出てきているが全面的には難しい。ヨーロッパと異なり日本には全体を任せられる企業がない。浄水場管理などは一部民間に任せている。東京ガスなどは儲からないところには引かないが、水道はそうはいかない。水源開発も民間には無理だろう。しかし、将来的には可能。普及率が100％になって、競争相手が多数いて、担い手ができたとき。新設には更新以上にお金がかかる。

・ コストダウンへの努力はしているか。

財政構造改革の考えをもとに、平成9年から4年間で職員を25人削減した。これは人事異動によって実行した。また、今まで水道管は1.2ｍ以上の深さにしなければならなかったのが、検討して80�pでも大丈夫ということになり、年２億5000万円浮いた。ほかには経常経費削減、民間委託などでコストダウンへの努力をしている。

・ 水圧発電については考えたことがあるか。

位置エネルギーを利用してやってみることを検討しているが、まだ研究段階である。高低差があって水圧が高い今市浄水場が可能かもしれない。条件が整えば将来実現可能である。

・ 直結給水化は進んでいるか。

平成9年6月から3階以上の12戸以下のところで直結給水が可能になった。現在3階の7%に実現している。新しく建てたときでないと、わざわざ受水槽を撤去してまで取り付けようという人はいない。水道局は指導という形で直結給水化を勧めている。費用は全額需要者の負担になる。あくまで所有者が決める問題。

　4階以上にもできないか検討しているが、水圧を上げるとそれだけ古い水道管にダメージを与えて漏水を引き起こすので簡単にはいかない。何階まで可能かは自治体の裁量に任せられている。

・ 水の安全に関する水源対策はしているか。

地下水を水源としているものに関しては、住民に変なものを流さないように呼びかけている。

河川を水源としているものでは、河川流域の自治体で掃除を年に1・２回やる、会議をするなどという形で協力している。下水処理の基準を守る。それ以外は問題発生時にすぐに対応している。最近では今市で産業廃棄物の不法投棄があった。

・ 今回の水道法の改正で具体的に変えたことはあるか。

ごく最近のことなので、いろいろ考えは出ているが、まだ具体的に変えるという段階には至っていない。

・ 国とは完全に分離されているのか。それとも通達等があるのか。あれば何省か。

補助金のつながりがある。ダムの負担金を補助金で補う。補助金は水源が地下水ですむところとそうでないところの格差を埋めるのに使われる。厚生労働省から通達がある。安全基準、薬品濃度など。この前の同時多発テロのときは浄水場でのテロに備えるよう、危機管理について通達があった。しかし、厳しい締め付けはほかの部署に比べて少ない。

・ ほかの部署との連携はスムーズに行っているのか。

スムーズにいっているといえる。もともと連携が必要なことは多くない。例えば下水道との合併を検討している。すでに下水道料金の徴収は煩雑さを避けるため水道料金と同時に行っている。受水槽は保健所の管轄だが、来年4月から協力を考えている。建設分野についても、工事をガス、電気などと一緒にやったほうがよいのでスケジュールの調整などを行っている。

・ 民間団体との接触、協力などはあるか。

消費者団体と協力して料金改定を行っている。業務委託も積極的に進めている。現在はメーター検針、施設管理の一部を委託している。

・他市町村との協力はどのように行うのか。自治体同士の関係は。水を買う、借りる。ダム事業への保障（町にお金は入るのか、利益があるか）水利権に関するもめごとはあるか。

協力の面

　ほかの水道局との合併が提案されたこともあったが、合併の前にできることがあるのではという思いから周辺自治体で研究会を発足させた。

　水が足りなくなったときには同じ料金出た市町村に分水してあげる。市町村間に普段は使わない水道管を造っておき、有事の際に水を供給するという試みも検討している。宇都宮市は川口市、水戸市、前橋市（同規模の都市）で渇水時、災害時のための協定を結んでいる。

水利権について

　水利権とは川の水を取る権利である。水をとりたい自治体がたくさんある。ダムを建設して水をためないと水利権は得られない。ダム建設にお金を負担することで水利権を得る。水がほしい県、市町村が出資する仕組み。

町の利益、補償について

　ダム建設による負担金はまず国＝建設主体に支払われる。ダムを建設するのは国である。一度国に支払われてから町にお金が補償として支払われる。補償は国によって行われる。

宇都宮水道局の浄水場が他市町村にある場合。市のものであり、他の市町村のものとはならない。市が税（国有資産等所在市町村交付金、固定資産税のようなもの）を所在する市町村に対して払って管理している。これは年450万円かかっている。

水利権に関するもめごとについて

　基本的には調整、話し合いをするのでもめごとはない。必要量によって水の量を配分する。地下水には水利権がないのですんなりいかないときもある。そういう時は協定を結んで対処する。

水道局を訪れてみて

　皆さん非常に丁寧に応対してくださり、十分な取材ができた。経営努力をしているといっていたが、実際建物はかなり老朽化しており、無駄遣いをしない姿勢が感じられた。そして、さらに感心したのが、通勤方法で、ほとんどの職員の方が自転車で通勤しているということだった。市の水道事業に関して、お役所体質といったものは私の目には感じられなかった。極めて事業、市民本位の体質が見られた。