目次

      テーマ「外国籍児童をめぐる子女教育行政」

   宇都宮大学 国際学部 国際社会学科 4年 960102H 青木和華

 

はじめに                             −  1 −

第一章   外国人子女の就学方法

第一節       外国人子女が就学する前に                −  2 −

第二節       インターナショナルスクールに通う児童          −  3 −

第二章   公立学校に通う外国人子女に対する体制

第一節       外国人子女の現状                    −  4 −

第二節       外国人の受入に対する行政の動き             −  4 −

第三章   文部省が運営する外国人子女教育

第一節       文部省の外国人子女教育の充実に関する施策        −  5 −

第二節       外国人子女教育等関係予算                −  8 −

第四章   各都道府県がみせる外国人子女教育への施策

第一節       栃木県の外国人子女教育と外国人子女の就学状況      −  9 −

第二節       他自治区の活動                     − 10 −

第五章   各市町村が実施している外国人子女教育

第一節       宇都宮市の外国人子女の現状               − 12 −

第二節       宇都宮市が実際に行っている外国人子女教育行政      − 12 −

第六章   これからの外国人子女教育に対する行政            − 14 −            

おわりに                             − 15 −

表1                               − 16 −

参考資料                             − 18 −

 

 

 

 

 

 

  外国籍児童をめぐる子女教育行政

                国際学部国際社会学科 4年 960102H 青木和華

 

はじめに

わが国の平成10年度における外国人の正規入国者は、4,556,845人(総務庁統計局調べより)で、平成7年度国勢調査によると、わが国に常住する外国人は114万人で総人口の0.91%となっている。外国人人口も年々増加傾向にあり、平成2年から平成7年の5年間に25万人の増加、国籍の数も平成2年には150カ国であったのが平成7年には179カ国へと29カ国も増加した(1)。入国理由が、例えば観光にしろ、就労にしろ、留学にしろ、年々日本への入国率が高まっているのは確かである。街道の標識には、ローマ字での補足表示、新幹線内には英語でのアナウンスなど、ここ2,30年の間で外国人にも優しい国となってきた。逆に外国人に対してだけでなく、例えばクリスマスという行事やほとんどの邦楽に利用されている英語の歌詞、話題のアジアンレストランなど日本は海外の文化をうまく取り入れてきた。そして海外旅行も珍しい事とはされなくなり、海外への留学をする者も近年は増加傾向、英会話スクールなどの語学学校も立派な企業へと成長した。今まさに日本は多様化文化社会を認めざるを得ない状況になっている。そして同時にたくさんの国際問題を日本は抱える事になった。それは戦後55年の間、急速に進む国際化に日本人の多くが対応できなかった、というのが大きな理由のひとつに挙げられるであろう。来日した外国人との会話がうまくいかずめんどうになったり、外国人との文化の相違で衝突を起こしたり、歴史的な視点から外国人を敵視してしまったりと、日本人はできるだけ外国人と接触しないよう避けていた一面もあったかもしれない。しかし、時代は変わり、いろんな異文化をわりと柔軟に受け入れられる世代となってきた今、今までとは違う新しい国際化が注目されるのである。

そこで私は、この新しい国際化の中心となっていくであろう今の子供達の国際化時代の教育に焦点を合わせたい。日本人の子供達に限らず、世界の子供達に対する日本の教育行政について研究していきたいが、なかでも焦点を合わせたいのは、海外子女や帰国子女ではなく、外国籍を持った「外国人子女」に対する教育行政についてである。冒頭でも書いた通り、国内には年々外国人が入国し、住むようになった。かれら外国人の保護者に同伴し入国してきた外国人子女は、日本での就学義務は課せられていないが、もし希望するなら公立学校も受け入れ可能とされている。では、日本はこれら外国人子女に対してどのように働きかける事ができるのか。そしてその結果、外国人子女を受け入れた学校やその地域の日本人、または外国人に対して、少なからずの国際化がみられるのか、みられないのか。そしてそれは将来必要な国際化か、否かを探っていきたい。ではまず第一章は、外国人子女は日本のどういう学校に通うのかということから探ってみることにする。

 

第一章       外国人子女の就学方法

第一節    外国人子女が就学する前に

先にも述べたように、日本には179カ国の外国人が常住している。たくさんの国の人が日本に住むようになった。そしてたくさんの生活スタイルをもった人々が住むようになった。それと同じく、外国人子女にはいろんな就学スタイルが日本では与えられている。そこで、どのような就学スタイルがあるのか追求してみた。

まず、日本国籍の児童には六・三年制の就学が義務化されているが、外国籍児童には日本国内での就学義務はない。そこで、外国人子女の保護者はまず、学校へ行くか、行かないかの選択ができる。ここではほとんどの保護者が学校へ行く事を子供に勧める。そして次にインターナショナルスクールか、日本の公立学校に通わせるかの選択がある。

 

(1)   日本の「学校」の定義

このインターナショナルスクール、いわゆる国際学校とは、学校教育法1条により法律

では「学校」という範囲からはずされている。では日本の行政では何を学校と言い、逆に学校では無いとされるものには何があるのかを探ってみた。

法的な意味で組織的な教育を行う教育施設は次の四種類に分かれる。

@学校教育法第1条に規定する正規の学校

A各種学校

B専修学校

C学校教育法以外の法律に特別の定めのある教育施設(防衛大学校、職業訓練校、保育所など)

しかしこのうちのA専修学校、B各種学校とCの教育施設は、学校教育法第1条の学校の名称を掲げてはならない(学校教育法83条2第の1項)とされている(2)。このように、正規の学校以外の教育施設には制約が加えられている。

 @の法律に定める学校は、「その学校で行う教育の公共性にかんがみ、学校の設置や管理に関して規則されている。まず、学校を設置できるものは、国、地方公共団体、学校法人の三者に限られる(学校教育法21項)。Aここでいう学校とは小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校、及び、幼稚園とする(学校教育法22項)。」とされているのである()

また「学校法人」とは私立学校を設けることを目的にして、この法律(私立学校法)の

定めているところにしたがって設立される法人のことと私立学校法三条にある(4)。

(2)「学校」以外の学校

Aの各種学校は、学校教育に類する教育を行うもの、と規定され、その設置や管理についての規定が緩やかであるので、一般的には教育内容等に関して正規の学校ほど組織立っているとはいえない。しかも各種学校の種類は極めて多種多様で、正規の学校では、満たしがたい教育的内容を社会の要請に応じて充足する役割を果たしている。

Bの専修学校は、従来の各種学校のうち、一定の規模や水準をもって組織的教育を行っているものを新たに専修学校とする、という制度が、昭和51年度から発足した(5)。ということから専修学校は、「学校」により近くなることとなった。しかし、AとBが「学校」から除かれた一番の大きな理由は、いわゆる正規の学校における教育が公の性質をもつものであることに基づく、と考えられるのではないか。

 

第二節 インターナショナルスクールに通う児童

 インターナショナルスクールのほとんどは、上記Bの「専修学校」として扱われ、その性格は語学学校や、料理学校、珠算学校、予備校などと同じとされる。従って、予備校を卒業しても公立学校の卒業資格がもらえないのと一緒で、外国人子女がインターナショナルスクールを修学しても修業後は上級学校への進学資格は得られない、という問題が生じるのである。さらに、インターナショナルスクールは法律で「学校」と定まっていないので、国や県・市町村からの金銭的援助は全くもらえない、というのが現状である。そのため学校運営は厳しく、それに便乗して授業料は高くなる。また、その関係で外国人が多く常住しない地域にはインターナショナルスクールの設置は難しく、学校の数も少なくなるし、偶然あったとしても通学に少し不便な所に位置する、というパターンも少なくない。以上の事から、ここに通う子女と言うのは、日本に短期滞在する予定の外国人子女やすぐに母国に帰国すると言う前提の外国人子女が自然に集まっている、ということがわかる。また、ここでの言語は、中国人学校、韓国・朝鮮人学校、ドイツ人学校、フランス人学校など国籍を限定している学校以外はほとんどが英語であり、授業はもちろん日常会話も英語で、アメリカ式の学習システムになっている。日本のシステムで学習するよりはそれぞれの母国へ戻っても勉強の進度があまりにも広がらないようにという考えからであろう。だから、日本にいるせいで母国語を忘れてしまって日本語しか話せなくなった、などと言う問題はみられないようである。

それでは逆に日本の公立学校に通うことを選択した外国人子女はどうなのであろうか。 

第二章からは外国人子女が日本の公立学校に通うこととなった場合の行政の対応について追求してみたい。

 

第二章       公立学校に通う外国人子女に対する体制

第一節       外国人子女の現状

まず、行政の動きを見る前に日本全体の外国人子女の動向をつかんでおきたい。近年、公立の小・中学校に就学する外国人子女、とりわけ中南米からの日系労働者の同伴する子女が増加しており、日本語指導が必要なレベルの外国人子女数は平成99月の調べで約17千人在籍し、学校数は約5千校、平成7年の調査と比較すると児童・生徒数は459%増、学校数は315%と着実に増加している。なお、これら外国人子女の母国語は53言語に及んでいる。そして、外国人子女が日常生活で使用する第一言語を見てみると、ポルトガル語、中国語、スペイン語、フィリピノ語、韓国・朝鮮語の順となっている()

 

第二節       外国人の受け入れに対する行政の動き

外国人には就学義務が課せられていないが、これら外国人の子女が日本の公立小・中学校への就学を希望する場合には受け入れることとしているというのは前にも述べているが、外国人子女を受け入れた後の扱いは日本人と同様、授業料不徴収・教科書無償給与等なのである。インターナショナルスクールとの違いはここで明らかになるが、前者をメリットとするならデメリットとして、周りに自分と同じ第一言語を利用する人間がおらず意思の伝達がうまくいかない、授業が聞き取れない、学習システムが違うというのがあげられる。そこで文部省、県教育委員会、市町村教育委員会では外国人子女教育の充実としていろいろな施策を実施している。全国の学校を運営する文部省は外国人子女教育の研究校を設け、協議会の開催などを手がけているが、より深い具体策は各自治体に任せている。その各都道府県教育委員会はその次の市町村の教育委員会に教育指導を任せ、そして全国の市区町村の教育委員会では施行錯誤で外国人子女教育の事業を展開している。私はこれら三者に直接話を聴く機会をいただいた。それらについて次の章から論じていきたいが、第三章では、まず日本全体の大まかな動きを追いたいので最初は文部省の施策を見ることに絞ってみた。

 

第三章       文部省が運営する外国人子女教育

第一節 文部省の外国人子女教育の充実に関する施策

まず、文部省に出向き、文部省海外子女教育課の高橋氏にお話を伺った。まず文部省が外国人子女教育のなかで一番に力を入れているものは何かというと、日本語能力が全くできない子女に対しての日本語指導であるようだ。日本の公立学校では、児童には当然、日本語での授業、道徳教育、特別活動等が行われる。外国籍児童生徒にだけ特別な生活を許すのでは学校教育からは少し離れてしまうかもしれない。だからこそ外国人の児童が出来る限り早く、日本の公立学校での生活に円滑に適応できるように日本語指導の充実を図っている。その他には、その外国人子女の家族ともども日本の生活習慣に通じていない者がいることから、これらのものに対しての日本語指導・生活面・学習面についても力を入れている。

それでは、どのような施策を実施しているのか。文部省の海外子女教育課が平成11年1月に作成した「海外子女教育の現状」という資料には次の実施11項目があげられていた。(表1) 

これらの11項目のうち3項目を詳しく見てみる。

 

(1) 文部省が主催する外国人子女教育研究協議会

 1つ目は@の外国人子女教育研究協力校についてだが、平成11年度の協力校は小学校では北海道、群馬、埼玉、石川、山梨、静岡、三重、京都、広島、香川から各1校ずつと福岡からは2校、これらの13校と、中学校は茨城、神奈川、愛知から各1校ずつ、合わせて16校である。このうち平成10・11年度の指定校は小学校が北海道、群馬、石川、三重、京都、香川、福岡のうちの1校、以上7校と中学校が愛知の1校、合わせて8校である。文部省海外子女教育課の高橋さんの話によるとこの指定校の選抜方法はやはりその自治区に外国人子女が多い地域が選ばれるそうである。ちなみに平成9・10年度の指定校はこの外国人子女教育研究校のうちの平成10・11年度指定校以外の学校であった。

では、平成11年度の帰国子女・外国人子女教育研究協議会はどのようなものであったのか少し細かく説明したい。この協議会の主催は文部省であり、開催目的は、「帰国子女・外国人子女教育に関し、その内容及び方法の改善について研究協議を行うとともに関係者相互の連絡を図り、もって、帰国子女・外国人子女教育の効果的な推進に資する。」と示されている。期間は平成11年6月30日(水)と7月1日(木)に分かれており、1日目は第一分科会「帰国子女教育分科会」、2日目は第2分科会「中国等帰国孤児子女教育及び外国人子女教育分科会」となっている。対象となる参加者は第二分科会では平成10・11・12年度文部省指定の中国等帰国孤児子女教育研究協力校の帰国子女教育担当教員及び当外交の所在する都道府県の帰国子女教育担当指導主事や、平成10・11・12年度文部省指定の外国人子女教育研究協力校の外国人子女教育職員及び当該当の所在する都道府県の外国人子女教育担当指導主事、また平成10・11・12年度文部省指定の外国人子女教育受入推進地域センター校の外国人子女教育担当教職員及び当該地域を所管する都道府県及び市町教育委員会の外国人子女教育担当指導主事等であり、原則として各学校当たり、1名とされる。第2分科会での部会は中国等帰国孤児子女教育研究校小学校部会、中国等帰国孤児子女研究協力校中・高等学校部会、外国人子女教育研究校部会、外国人子女教育受入推進地域部会の四つによって構成される。この7月1日の日程・内容は9時から受付や開会式などがあり、9時50分から2時間の講演、そして12時50分から研究協議がスタートするようになっている。参加者は第1、第2分科会合わせて約300名であった。

その研究協議の内容を、見てみると、まず各学校の概要、どれくらいの面積の町に何人の人口でなぜ外国籍の児童が学校に在籍するようになったのかを述べ、外国人児童の在籍状況、特色・傾向を説明する。そしてこれまでの取り組み状況を発表していく。その方法やその成果、最後に現在直面している課題と今後の取り組みを発表するのである。

 

(2)   文部省が主催する各自治体への指導会

次にCの外国人子女教育担当指導主事研究協議会について説明したい。これは47の都道府県教育委員会の帰国子女教育ならびに外国人子女教育担当指導主事1名ずつと各政令指定都市教育委員会ならびに外国人子女教育担当指導主事(1教育委員会あたり2名)の参加である。

では平成11年度帰国子女・外国人子女教育担当指導主事研究協議会はどのようなものであったのか詳しく説明したい。これも同じく主催は文部省で、開催目的は「帰国子女・外国人子女教育についてより適切な指導や助言を行うことができる指導行政担当者を養成することによって、学校及び地域における帰国子女・外国人子女教育の一層の充実を図る。」と示されている。開催は平成11年5月14日(金)、会場は国立オリンピック記念青年総合センターで行われた。参加者は各都道府県47の外国人子女教育担当主事と札幌、仙台、千葉、横浜、川崎、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡、北九州市以上12の政令指定都市の外国人子女教育担当主事、合わせて59の自治区教育委員会の参加であった。日程・内容は9時に受付、開会式、10時半からは新山雄次文部省海外子女教育課海外子女教育専門官の講話「帰国子女・外国人子女教育の現状と課題」、相澤秀夫宮城教育大学助教授(併任海外子女教育専門官)の講義「日本語指導体制について」、13時からは演習「帰国子女・外国人子女の受入体勢の整備について」とされ、演習は1班あたり20名程度の4班に分かれ協議を行うものとされた。(7)

この参加者によって行われる演習題目は一律で「帰国子女・外国人子女の受入指導体制の整備について」でまず始めに各自地区の事例を簡単に説明し、そして子女の保護者から受入れについての相談を受けた時、教育委員会(教育センター等)の対応の在り方について各自治体から三通り程度述べている。その対応の後、受入れる学校に対しての教育委員会からの指導・助言のあり方についても述べている。例えば保護者との連絡を密にする、学校にいる教師全員での全校的な指導組織の整備を図る等を述べている。そして学校体制のあり方(管理職、教務主任、帰国子女、外国人子女担当教員担任教諭等の役割)、外国人子女を受入れる際の日本語指導・教科指導のあり方についての事例を効果的だったものと効果的でなかったものとをそれぞれ発表している。最後にこれら発表してきたような対応ができるような教職員の資質向上及び意識啓発のための施策を発表した。この演習発表の後,帰国子女・外国人子女に対して積極的かつ効果的な指導を行っていると思われる学校及び地域名を発表し合い、また、これからの課題についても話し合われた。

 

(3)外国人子女教育受入推進地域の指定

第一節であげた11項目のDに文部省は外国人子女教育受入推進地域センター校というのを10校あげている。これらセンター校と呼ばれるものは、その地域周辺で特に外国人子女が多く集まっている学校であり、その学校周辺に存在する学校のうちの拠点校として外国人子女教育研究を中心に行っているのである。平成10年度の外国人子女教育受入推進校は、茨城県結城市立結城小学校、群馬県玉村町立中央小学校、神奈川県川崎市立京町小学校、新潟県新潟市立松浜小学校、富山県高岡市立下関小学校、静岡県藤枝市立西益津小学校、愛知県豊川市立代田小学校、大阪府八尾市立高美南小学校、兵庫県尼崎市立城内小学校、鹿児島県市立名山小学校、以上の10校である(8)。

例えば、茨城県結城市立結城小学校をみてみると、センター校結城小学校は外国人児童が平成11年度現在28名在籍する。その周辺の小学校は城南小学校、結城西小学校などセンター校の結城小学校を含め9校の小学校と3校の中学校があり、この11校あわせて90名の外国人子女が在籍している。結城小学校では、日本語指導協力者やカウンセラー、ボランティア、また日本語指導教育部や国際理解研究部などの4つの研究部を構えており、他の10校と協力しつつ、日本語指導や、教材の作成、情報収集などを行っている(9)。以上が文部省が運営する範囲の事業内容である。

 

第二節 外国人子女教育等関係予算

それではこれらの事業を運営するための文部省が打ち出す予算とはどのような構成なのであろうか。平成11年度の外国人子女教育等関係予算を詳しく見てみよう。

 まず一つ目の「外国人子女等日本語指導教材等の作成配布」についての予算だが、この事業内容は、外国籍児童生徒のための日本語指導教材及び教師用指導書ならびに外国籍児童生徒を指導するにあたっての留意事項をまとめた教師用手引きを作成する。平成10年度の予算は16,169,000円、11年度の予算は16,341,000円と微妙に上がった。

 二つ目の「外国人子女教育担当教員研修会の開催」については事業内容は、外国籍児童生徒教育担当教員等に対し日本語指導等の実践的研修を行う。平成10年度の予算は4,287,000円で、11年度は4,291,000円であった。

 三つめの「外国人子女教育受入推進地域等の指定」については急増している外国人子女に対して、学校、地域一体となった受入態勢を整え、日本語指導及び調査研究を行う。平成10年度は23,707,000円で11年度は47,510,000円と急に二倍近くも上がった。

 四つめの「中国等帰国孤児子女教育研究協力校の指定」は中国帰国孤児子女の比較的多く在籍する学校を指定し、中国帰国孤児子女の積極的な受入と実践的研究を委嘱する。平成10年度は18,205,000円、11年度は17,937,000円と少しではあるが減少している。これは、オールドカマ−の外国人子女自体が少なくなっているのと、日本語が出来ないと言う中国帰国孤児が少なくなったからと言うのが考えられる。

 五つ目の「外国人子女等適応指導体制の推進」は外国人子女等の学校に対する不適応問題に適切に対処するために外国人子女等受入校に外国人子女等教育相談員を派遣する。これは平成11年度からで245,081,000円である。

 最後に六つ目の「外国人子女教育等指導協力者の派遣」についてだがこの事業は平成10年度までの事業で、23,737,000円の予算だったが、11年度の予算はなしである。(以上10)

これらの合計予算額は平成10年度では86,105,000円だったのが、11年度は110,160,000円と、多少上がっている。

平成2年から平成11年度の外国人子女教育等関係予算の推移を見てみても新しく始められる事業が平成5年に2つ増えるのと同時に1つの事業が終わり、平成8年に2つの事業が終わり、新しく1つの事業が始まる、という風に多少の変化はあるものの、金額的には大きい変化はなく横ばいと言える(11)。

 

第四章       各都道府県が見せる外国人子女教育への施策

第一節 栃木県の外国人子女教育と外国人子女の就学状況

文部省の海外子女教育課の次に、宇都宮大学がある栃木県の栃木県教育委員会事務局義務教育課の森田氏に話を伺った。

平成11年5月に外国人子女の就学状況について県の教育委員会は、各市町村教育委員会に調査を依頼し、まとめたところ、外国人子女の就学者数は小・中学生合わせて1158人、平成10年度12月の調査時に比べて33人減少しているが、平成10年5月と比べると、5人増加していることがわかった。また国籍別の就学者数は多い順に、ブラジル、ペルー、中国、韓国・朝鮮、ベトナム、フィリピンという順になっていた(12)。

具体的に小学校の国籍別外国人子女の就学数を市町村別に見ると、平成11年5月の調べによると,宇都宮市の在席数は186人でそのうち多い順で見てみると、ブラジル国籍が74人、中国が48人、韓国・朝鮮が22人という様な状況であった。次に真岡市で外国人子女の在席数は118人でこちらもブラジルが一番多く75人、ペルー国籍が31人、ボリビア国籍がが5人と言う状況である。三番目に外国人子女が多く在籍している自治区は小山市で100人の在籍状況でここでもブラジル国籍が一番多い48人で、続いてペルー国籍24人、韓国・朝鮮が11人、中国が11人であった(13)。ここ小山市には栃木県朝鮮初中級学校と言う専修学校がある。

中学校の国籍別外国人子女の就学状況を見てみると、こちらも変わらず,在席数が多い自治区は宇都宮市の104人で国籍は中国が多く45人、次にブラジルの26人、韓国・朝鮮の22人である。2番目に多く在籍する自治区は小山市でブラジル国籍が16人、韓国・朝鮮が14人、中国が11人と言う状況である(14)。

 栃木県でのこの外国人子女就学状況調査は毎年5月と12月に行われるがブラジル国籍以外はほぼ横ばいであるが、勢いよく就学者数が増えていったブラジルは今回はじめて落ち込みを見せた。

 

第二節 他自治区の活動

第三章第二節で述べたような事が文部省の主催のよって行われているが、各都道府県の自治体では実際どのような活動が行われているのか。平成11年度帰国子女・外国人子女教育担当指導主事研究協議会で「外国人子女の受入指導体制について」を発表したある県の事例を見てみたい。

@     事例

x県のX市教育委員会はa国籍のAさんの就学について相談を受けた。Aさんは既に2

年前に母親と来日はしており、その前から来日していた父親の住んでいたY県で生活を始めたが、その後父親の仕事の関係で住所を転々とし、そして、x県のX市に定住する事となった。Aさんは既に就学年齢に達してはいたが、両親は就学の手続きがわからず,また相談する相手もいなかったのでAさんを就学させる事が出来ないでいた。家庭では母国語だけを使用していたため、Aさんは日本語をほとんど理解できないでいた。そこに近所の日本人の知人がAさんの就学を心配し,Aさんを伴ってX市教育委員会を訪れたのである。

A     受入について相談を受けた時の教育委員会の対応の在り方

 市教育委員会の外国人子女教育の体制や方針をはっきりと説明する。個別の配慮は十分

行うものの、基本的には日本人生徒と同じようにその児童生徒の個性を生かした教育行う事としている。学齢相当の学年に所属する事になるが個人的に日本語の指導などを行うようにするよう学校に依頼する。中学校の卒業や母国での上級学校への進学の事を考えると学齢相当の学年に所属する事が必要である。

B     上記の対応の後、受入れる学校に対しての教育委員会からの指導・助言の在り方

 子供の日本語の実態を踏まえて、いじめなど就学後に懸念される事や予想される問題点

と関わらせて受入直後の指導体制について具体的に指示する。学齢相当の学年に入れるが、一時的に個別指導や下学年の教材の使用などに配慮し、早く日本の学校になれるような指導をする。また保護者との連携を取りながら本人や保護者の思いをとらえた指導をするように助言する。

また、国際理解教育の推進の立場から、指針をすべての学校に示しておき、外国人子女の受入時など、機会をとらえて確認する。

C     このような事例に対応できるような学校体制の在り方

 管理職等は、学校の受入体制を明確にしたうえで、出来る限りの配慮に努める一方で、

出来る事と出来ない事をきちんと保護者に伝えていく必要がある。

担当教員は、県や市町村の関連施策や一般的な課題、共生を柱とした方向性等を示すとともに、外国人子女が自国で見に付けたものを失う事のないよう、本人にその良さを自覚させながら、日本の習慣等になじませていけるような全体計画を示す。また、外国人子女の実態に応じた個別のカリキュラムの作成を支援する。

学級担任は、常日頃から温かい学級の雰囲気づくりを努めるとともに、本人及び保護者とのコミュニケーションを十分図りながら学級における適応指導を推進するようにする。また、進んで他の教職員との連携を努め,学校全体で外国人児童生徒の指導・援助が展開されるようにする。

好ましくなかった例としては、保護者の強い希望によりその外国人児童の学齢以下の学年に在籍させたが、結果的に、年齢を超えた好ましくないつながりができ、生徒指導上の問題に発展した事があった。

D     外国人子女を受入れる際の日本語指導・教科指導の在り方

 日本語指導を活用した受入時の個別指導の充実のほか、各学級においても次のような事

項に配慮する。

子供同士がなるべく関わることができるような学習活動を工夫する。

具体物や視覚に訴える資料を活用した授業を行う。

特別活動において、外国人児童生徒の状況に配慮した題材を取り上げる。

E     この事例に対応できるような教職員の資質向上及び意識啓発のための施策

 各教育事務所の担当主事による助言や訪問指導を中心に、市町村の連絡会議等の実施状

況を把握し、担当指導主事が積極的に参加するようにしている。また、各教育事務局が外国人子女教育に関する情報センターとしての機能を果たすことができるよう情報の収集と提供に努めている(15)。以上がある自治体での実際に活動している事業である。

 

第五章       各市町村が実施している外国人子女教育

第一節 宇都宮市の外国人子女の現状

次に宇都宮市の学校教育課の野口氏にお話を伺った。宇都宮市の外国人児童生徒の就学状況は小学生の場合59の学校に186名在籍している。宇都宮市内の小学校で外国籍児童が多いのは、清原東小学校でブラジル国籍の児童が24人、ペルー国籍の児童が3人、韓国児童が1人の計28人在籍する。次に外国人児童が多く在籍している小学校は、御幸小学校でブラジル国籍10人、中国とペルー国籍が4人ずつの計18人、次に姿川第一小学校にブラジル国籍児童のみで15人の外国人児童が在籍しているというような状況である(16)。

中学校の場合は、21の中学校に104名が在籍している。清原中学校にブラジル国籍の生徒が11人、韓国籍の生徒が3人、ペルーとボリヴィアが1人ずつの計16人の外国人生徒が就学している。次に泉が丘中学校で台湾が6人、中国が4人、韓国籍が2人、ペルーが1人の計13人というような状況である(17)。

 

第二節   宇都宮市が実際行っている外国人子女教育行政

(1)学校教育課の活動

学校教育課では前年度に財政局で組み立てられた予算の中で外国籍児童の教育事業を行わなければならないが、年度始めの4月7日頃から20日までの間に外国籍児童の人数をまとめ、それに合わせるように日本語指導講師を派遣するようにしている。宇都宮市でも外国人子女教育の上で一番力を入れなければいけないのは日本語能力が無いとされる児童生徒への対応だと考えており、できるだけ外国籍児童生徒1人に尽き1人の講師というような形をとっているが、予算の限りもあるので兄弟で1人だとか、同じ母国語を持っている児童生徒二人に対して1人の講師という形もとっている。また急に編入してきた外国籍児童に対して日本語指導講師を派遣できないと判断した場合、近くの学校に日本語講師がいるという旨を伝え、その学校に通ってもらうということもあるそうだ。

この日本語講師だが公立学校の教師とはまた違って日本語講師自身が外国籍の留学生であったり,ビジネスでたまたま栃木県に住んでいる日本語ができる外国籍の方であったりというような人物である。これら日本語講師は4月に宇都宮市から連絡を受け、この依頼を引き受けてくれた日本語講師の方と宇都宮市の学校教育課の人間と、入学が決まった公立学校の教師との三者顔合わせをして、一年間の計画を立てる。日本語講師はだいたい週木曜の9時から12時の間に担当する外国籍児童が在籍する学校に出向いてくれて、外国籍児童は授業を抜け出し、日本語の指導を受けるのである。まずは日本語を理解しない事には授業に出席していても意味が無いのでこの場合は日本語指導を優先しているそうだ。

宇都宮市には計134人の外国籍児童が就学している。この外国人子女教育等関係の予算は平成11年度では約140万であると学校教育課の野口さんは答えてくださったが、外国籍児童は短期滞在の場合であっても無償で教科書を提供し,授業料も日本人と同じで不徴収、その上、日本語指導用のテキストや外国人子女用の教科書、日本の文化を簡単にまとめた資料なども提供している。また、日本語指導講師自身もそのような体験をしてきた者も多いらしく、親身になって外国籍児童のメンタル面での相談役も引き受けてくださっているというのも多い。宇都宮市の外国籍児童はこの点に関しては恵まれた環境を提供してもらっているのではないか。学校教育課の野口さんの話によると,唯一日本語指導講師を派遣できなかったのはベトナム語の講師で現在、派遣が不可能だった外国籍児童は日本語が少し理解できる段階になったのでもう、講師は必要としていないらしい。このように外国人子女が日本語能力を高められた場合、日本語指導講師は必要とされなくなり,派遣も停止という事になる。また、外国人児童生徒の保護者の仕事の関係で宇都宮市から出て行くと言う時も日本語指導講師の派遣も停止する。

さらにこれから新しい事業を宇都宮市は展開する計画はあるのかとたずねたところ、外国籍児童生徒の数がほんの少しではあるが減少傾向にあるので別に新しい事業は行わず、今の形態をとることにするが迅速な対応を心がけていると答えられた。

 

(2)   「外国籍児童」になるための手続き

では、実際外国人児童が入学・編入の相談をしてきてからどのような手続きを行っているのかを学校管理課に聞いてみた。

まず、だいたいが宇都宮市役所の市民課で外国人登録をしにきた保護者が市民課の人間に相談し、その紹介で学校管理課に来ると言うパターンが多いらしい。また、ここで外国人登録を行ってない場合、教科書の配布や授業料不徴収ということができないのである。そして、 新入学・転入学申請書と言うのを母国語で書かれた説明書と一緒に保護者に渡し、宇都宮市教育委員会教育長宛に申請をし、そのあと入学するであろう,学校の校長と面接をし、学校の方針や,学習システムなどの説明を受けて初めて入学が成立する。またここで日本の児童は健康診断を入学前に行っているので外国籍児童も同じく健康診断を各自で受け、新入学・転入学申請書といっしょに提出してもらう。以上が宇都宮市での外国人子女教育活動である。

                                                

第六章       これからの外国人子女教育に対する行政

これまでいろんな視点から現在日本で行われている外国人子女教育に対する行政の動きを見てきたが日本の今の教育はニューカマーの児童生徒をめぐる制度が中心である。今回はあまり触れなかったが中国帰国孤児や在日韓国・朝鮮の児童生徒への教育研究も全国一律に力を入れて行われている。それらも含めてこの外国人子女教育は日本の学校への適応、つまり、「遅れ」を克服する事を狙ったものであり、対象の焦点はニューカマーの児童生徒であり、彼らのハンディを克服する事にあるのである。

その外国人子女の本音やハンディを私なりに大きく分けて4つ考えてみた。

@外国人として異なる文化を学習しなければならない。

A他の新入生同様、新しい場での学習、生活上のストレスに対処しなければならない。

B特定の目標を持ち、個人として成長・発展していく。

C国家を背負ったものとみられ、自分の文化や国の扱われ方に敏感になる。

いずれももう既に外国人子女は心の中でしっかりと自覚を持って生活をしていると思わ

れる。しかし、宇都宮市の教育委員会での話からは、できるだけ1人の外国籍児童に対して1人の日本語講師を派遣させるようにするという、外国籍児童は日本の公立学校に入っても恵まれた環境で学習が出来ているのではないか。

宇都宮市の場合、外国籍児童の在席数は少々減少気味で新しい事業の案は発展しないとあるが他の神奈川県や愛知県などは確実に新しい事業を展開しなければならないのだろう。日本以外の文化を持った子女達が日本の学校で就学する事により、今までの日本の学校システムに対して気付かなかった新しい課題を発見させてくれるに違いない。そしてこれらに対して迅速かつ慎重に対応することが新しい国際化につながるのであろう。学校や行政だけでなく地域の人々との国際的なつながりもこれからどんどん展開していく事に越した事はない。宇都宮市のある学校では外国籍児童の母親が中心となって母国の風土や慣習を講習するセミナーを学校の体育館で行ったらしい。児童生徒だけでなく、一般開放だったらしいが、確実に国際交流が進んでいる。行政だけが、国際化に対応していくのではなく、行政を中心とした国際化を目指していきたい。21世紀は彼ら児童達がこの展開の鍵を握っているのである。

 

おわりに

 昭和生まれから平成生まれの子供になり、日本の敗戦を知らない時代の子供達は意外と外見の違う外国人を偏見視することも無くなり、また国際結婚で生まれてくる子供も少なく無くなった。私自身、国際結婚でソウルで誕生して4歳直前にアメリカから日本に来たが、6才の時には既にもう日本語しかできなくなっていた。その理由は、きちんとした英語を話す私がある日から幼稚園で覚えてくる私のカタカナ英語に母が気付き,、いじめの対象にならないようにとその日から家庭内での英語の会話をストップさせたからである。あの頃とは全く違う環境になった今、もっと効率的に今まで身につけた文化をなくさず、、成長する事を社会に要求する事はおかしくないと思う。また大事なのは自分自身でも理想の人間へと成長する努力は当然するべきだ。ニューカマーの子供達は、自分がなぜいままでと違う文化の中で学習していかなければならないのかを認識し、2つの文化を持つことができる喜びも感じられるようになってほしい。外国人子女だけでなく日本の児童生徒、そして大人たちも国際平和について考えられるようになれるのも行政だけではない我々11人次第なのである。最後にこの研究を通して文部省の方や県庁、市役所の教育委員会の方々、そして中村先生などたくさんの協力を頂きました。忙しい中、私の研究の為に貴重な時間を頂きまして本当にありがとうございました。