要約

現在における急速なモータリゼーションの発達は、交通事故の増加、大気汚染などの環境の悪化、中心市街地の衰退、交通渋滞など、社会に様々な問題を生み出した。このような多くの問題の中で、特に宇都宮市における交通渋滞問題に焦点を当ててみた。

宇都宮市は、一点集中型の都市構造を有し、歴史的には城下町であったため、昔ながらの道路が今でもそのまま利用されている。また、全国的にも自動車社会であり、自動車への依存度は高い。そのため、慢性的な交通渋滞に悩まされている。道路整備については宇都宮環状線が開通したことによって、都心への通過交通を迂回させることができるようになったが、渋滞が緩和されたとは言い難い状況である。さらに、自動車交通に押され、公共交通が衰退している。

交通渋滞緩和策の1つに、交通需要マネジメントというものがある。交通需要マネジメントとは、自動車の利用の仕方を工夫することによって、交通渋滞を緩和しようという考えである。その1つに、パーク・アンド・バスライドというものがある。郊外の駐車場でマイカーからバスに乗り換え、都心部への通勤マイカー交通を減らそうというものである。このシステムは、金沢市で本格化されており、交通渋滞緩和に影響することが分かっている。

宇都宮市でも、平成7年、9年の、過去2回にわたって大規模な実験が行われた。実験から得られた結果から、導入に向けての課題がいくつか挙げられた。まず、バスが快適に走れるためのバス走行環境の確保である。バスが渋滞に巻き込まれては、マイカーからバスに乗り換える意味がない。次に、郊外駐車場とバス停位置を、アクセス時間が短いよう、また、なるべく迂回が少なくなるように、できるだけ近くにすることである。さらに、システム料金の低減化である。実験は全て無料で行われたが、本格導入となると駐車場料金、バス料金などが利用者の負担になる。料金をなるべく安く押さえることが必要である。

今後の都市交通の課題は、自動車交通と公共交通をどううまく共存させるかにある。公共交通は、交通弱者と呼ばれているような人々の交通の足を確保しなければならない。また、大都市に比べ、地方の都市は公共交通が十分に発達していないところがある。そのことを踏まえて、交通渋滞対策における自動車交通の抑制が、そのまま人々の生活行動範囲の抑制につながっていくようではいけない。

渋滞問題に限らず、広い意味での交通問題を考える際には、交通そのものだけに目を向けるのではなく、様々な社会の変化に対応することが重要である。

テーマ  宇都宮市の交通課題

 

目次

 

はじめに                          ‐1‐

 

第1章       宇都宮市の交通の現状と問題点            

第1節       交通渋滞の激化                  ‐2‐

第2節       公共交通の衰退                  ‐3‐

 

第2章       交通需要マネジメントとは             

第1節       交通需要マネジメントとその役割          ‐4‐

第2節       パーク・アンド・バスライドとは          ‐6‐

 

第3章       宇都宮市の交通需要マネジメント施策

第1節       パーク・アンド・バスライドについて        ‐8‐

第2節       導入に向けての課題                ‐13‐

 

第4章       今後の都市交通の課題 −結びに変えて−       ‐16‐

 

あとがき                          ‐18‐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめに

現在は自動車社会である。どこに行っても車があふれ、車なしの生活は考えられないほどになっている。人の移動はもちろん、様々なものや情報が運ばれ、車は社会的・経済的活動にとっても、たいへん重要な役割を果たしている。

日本では、20世紀初頭に自動車が入ってきた。日本で自動車の製造がある程度行われるようになったのは、1930年代であったが、戦争で一時中断され、本格的な自動車生産が開始されたのは、1950年代半ば近くになってからである。(注1)それから、自動車は着実にその数を増やしていった。1960年代後半、高度経済成長期に入ってからの急速な普及により、平成8年度末には、全国の自動車保有台数は7000万台を超え、1世帯あたりの自動車保有台数も約2台と、(注2)現在の私達の生活に、自動車は生活必需品といっても過言ではないほどになっている。

 このような急速なモータリゼーションの発達は、現代社会に様々な問題を生み出した。平成9年度には、全国の交通事故発生件数は78万件、交通事故死者数は9640人であり、(注3)交通事故は増加の一途をたどり、依然として深刻な問題となっている。また、新しい道路が次々に建設され、道路整備が進むなかで、郊外部への大規模商業施設の立地や市街地の拡大が進行し、中心市街地の空洞化が進んでおり、都市機能全体の活力低下が懸念されている。さらに、急速な自動車社会の進展に道路の整備が十分に対応できず道路交通渋滞が発生している。運輸省の陸運統計によれば、交通渋滞による時間的、経済的損失は、年間で国民1人あたり約42時間、金額にすると、全体で12兆円、国民1人あたり年間10万円にも及び、日本の経済、生活等に大きな足かせとなっている。本来自動車は、高速で自由な陸上移動への夢とその輸送手段としての可能性を期待されて作られたものであるが、その普及によって、往々にして予想外の延滞を余儀なくされることとなってしまったのである。

このような問題を解決するために、交通需要マネジメントという考えが考案された。その中でも、渋滞の緩和とともに、自動車交通の進展により衰退の懸念されている公共交通の活性化を図る目的がある、パーク・アンド・バスライドについて注目した。今後、交通渋滞問題を解決するためには、自動車交通から公共交通への転換を図る必要性が高くなるだろうと思い、また、私も日常生活の中でもっとバスが利用しやすければと思うことがあるからである。宇都宮市の抱えている交通の問題点を挙げ、実際に宇都宮市でパーク・アンド・バスライドを導入するにはどのような課題があるのか、過去に2回行われた大規模な実験の結果を踏まえて考察していきたい。さらに、今後の都市交通における課題を、宇都宮市を含めて、特に渋滞対策と公共交通(特にバス)の関連について考察していきたいと思う。

 

第1章 宇都宮市の交通の現状と問題点

第1節 交通渋滞の激化

 宇都宮市は、市域の中央に商業・業務機能などのほとんどの都市機能が集積した一点集中型の中心市街地が展開し、それを取り囲むように住宅市街地が展開し、さらにその外周を農地・樹林地、河川などの田園・自然環境が取り囲むという同心円状の都市構造を有している。また、宇都宮市は城下町であり、昔ながらの道路が今でもそのまま利用されている。そのため、T字路が多く、道幅も狭い道路が数多く見られるのである。さらに、宇都宮市は、他に例を見ないほどの「放射状道路網」を持つ都市である。国道をはじめとして、日光街道、大谷街道、楡木街道、栃木街道(すべて通称)など、主要な道路がすべて市の中心部へ集中するのである。このため、宇都宮市街地への流出入及び市街地への業務交通が混在し、道路がたいへん混雑している。

 宇都宮市のある栃木県をはじめとした北関東は、もともと日本でも有数の「自動車社会」であり、車がないとどこにもいけないといわれる地域である。1世帯あたりの自動車保有台数を見ても栃木県が2.75台と全国第5位、群馬県が2.76台と全国第4位、茨城県が2.64台と全国第9位であり、(注4)高い自動車依存度であることが分かる。

  一方、宇都宮市でも自動車交通が大幅に伸びている。宇都宮市交通対策課の調べによると、宇都宮市の自動車保有台数は昭和50年には約5万台だったのに対し、平成9年には6倍の約30万台にも及んでいる。平成4年度に実施した宇都宮都市圏パーソントリップ調査によると、代表交通手段としての自動車利用率は約57%を占め、通勤目的に限定すれば約70%を超える。マイカーで通勤する人の割合は昭和50年の約50.1%から平成4年には約71.4%へと、17年間で約20%も増加している。特に、都市機能の集中する都心へのマイカー交通の集中が顕著である。

 このような著しい自動車社会の進展は、道路交通渋滞の激化をもたらした。宇都宮市は一点集中型の都市構造であるため、朝夕の通勤・帰宅ラッシュ時には、都市部とその周辺のほとんどの道路で慢性的な交通渋滞が起こっている。宇都宮都市圏の自動車交通は、午前は7時台に13.2%、午後には5時台に11.5%が集中するため、(注5)道路がたいへん混雑する。このピーク時の自動車交通の大部分は、通勤・帰宅交通である。この時間になるとどの道路も異常に混んでおり、通常なら15分くらいでいける距離のところが1時間くらいかかったりする。

 道路整備については、このような問題を解決するため、平成8年に宇都宮環状道路が開通した。この宇都宮環状道路は、宇都宮市街地の外縁部を一周する全国で始めての環状道路であり、放射状道路を接続し、広域的な通過交通を中心市街地から迂回させ市街地の交通に円滑化を図り、市街地や周辺都市から宇都宮環状道路を経由して東北自動車道や北関東自動車道へのアクセス強化を図る目的で作られた。この宇都宮環状道路の整備により、環状線内部の交通量が削減された。具体的には、都心部へ流入する交通の13%、都心部に目的のない交通(通過交通)については74%が削減された。また、宇都宮周辺の各拠点間の移動時間が短縮され、清原工業団地から宇都宮ICまでは平均で約15分の短縮、鹿沼ICまでは約11分の短縮がみられた。(注6)

宇都宮環状道路の開通により、環状線内部の交通量が削減されたが、実際には交通渋滞が緩和されたとはいい難い。環状線開通前の道路を実際に走ったことがないので数値でしか比較できないが、朝夕の通勤・帰宅ラッシュ時には市内の道路はどこも大渋滞である。迂回目的で建設された環状線そのものが渋滞していることもある。朝夕以外にも工事、右折車、路上駐車、事故などが原因の渋滞や、原因の分からない渋滞が頻繁に起こっている。これはもう、道路の新設や拡幅などといった交通処理能力に自動車交通量が追いつかないほどの勢いで増加しているためであるといえる。渋滞解消のためにあらたな道路を建設しても、それを上回る勢いで自動車が増えるのである。道路の新設には莫大な費用がかかり、沿道住民の理解と協力を得なければならないのでそう簡単に工事に着工できず、また、自動車の増加は排気ガスなどによる地球環境問題にも影響することから、渋滞解消のためのあらたな解決策が必要となってくるのである。

 

第2節 公共交通の衰退

 このような著しい自動車社会の進展により、公共交通の衰退が懸念されている。宇都宮市では、自動車の普及に伴って、バスの利用者が年々減少している。バスの利用率は平成4年度では約3.5%と、昭和50年度の調査の約12.8%と比較して3分の1以下と大幅に落ち込んでいる。(注7)

 バスは、不特定多数の住民が日常生活の中で移動する際に共通に利用することができ、かつ平等に保証されるべき基礎的な交通サービスである。つまり、都市部や地方部などの地域や、年齢、性別などに関係なく、またハンデイキャップを持つ人も比較的容易に享受できる輸送サービスであるといえる。また、バスは鉄道が未整備の地域では、通勤・通学などの基幹輸送としての役割を果たし、社会全体にきめこまやかな公共交通ネットワークを形成すべきものである。

マイカー交通からバス交通への転換を図るためには、バスを利用する際に、バスが自動車より身近で便利でなければならない。自動車の持ついつでも、どこにでも行けるという利点を越える何かがなければならないと思う。しかし実際には、自動車交通の進展と自動車交通の集中による交通渋滞の激化によって、バスの重要な要素である「定時性」や「迅速性」が失われつつある。したがって、利用者はバスより自動車の方が便利であると感じ、より自動車を利用するようになるのである。

一方で、自動車交通の進展は、交通渋滞による都市機能の低下、排気ガスや騒音などによる環境の悪化、エネルギー資源の浪費、交通事故の増加などの多くの社会問題を引き起こしている。バスが地域社会においてその機能を発揮することは、こうした社会問題の増進を抑制することになる。自動車交通の進展によるバスの衰退は、このような社会問題を一層深刻化させることとなるのである。

 

第2章 交通需要マネジメントとは

第1節 交通需要マネジメントとその役割 

 交通需要マネジメント(Transportation Demand Management)とは、道路の新設や拡幅などといった交通処理能力(交通容量)の拡大による方法とは異なり、道路の利用者の交通行動の変更を促すこと(車利用の工夫)により、道路交通渋滞を緩和する手法である。道路交通に対する需要サイド、すなわち、車を運転する人、同乗する人、集配や業務での車の利用を間接的ないし直接的に依頼したり命令したりする人に働きかけて、車の使い方、移動・輸送の仕方を変更していただくことで、問題を軽減・回避していこうというものである。

 このような交通需要マネジメントは、従来のような交通需要の増加にあわせて、道路や駐車場などの交通施設を整備することが困難になってきたことから、その必要性が広く認識されてきたものである。現実には、車社会の進展に伴う道路交通需要の増大に対して、道路整備が財政的にも、また沿道住民の反対など社会的にも困難となってきたこと、そして、NO2(二酸化窒素)やCO2(二酸化炭素)排出に伴う地域大気汚染や地球温暖化などの環境問題から、たとえ道路整備ができたとしても、あらたな問題を生み出すであろうという考えにより、交通需要の増大に対するあらたな解決策が考え出されたものである。

交通需要マネジメントの重要性は、1990年代になって日本でも認識されるようになり、建設省の基本的考え方の中に位置づけられ、マニュアル、事例集等も次第に整備されてきている。(注8)

現在、道路交通円滑化対策のひとつとして、各地で交通需要マネジメント施策が適用し始めている。多くは、都心部へのマイカー通勤者を対象に、郊外の駐車場でマイカーからバスに乗り換え都心へ向かうパーク・アンド・バスライドや企業が従業員を最寄の鉄道駅から勤務場所までマイクロバス等で送迎するというシャトルバスの運行を行うことにより、マイカー通勤をバス通勤に転換させたり、バスの定時性・迅速性を確保するために、バス専用の車線であるバスレーンを整備することにより、バスの運行をスムーズにすることや、朝のラッシュを避け、比較的道路のすいている時間帯に出勤時間帯を変更して、スムーズな通勤ができるようにするという時差出勤の試みである。このような試みは、社会実験という形で、数日間にわたり通常にはない仮説の施策や特別なバスサービスを準備して参加者を募るのが一般的で、体験することで交通問題を自分たちの問題として捉え、車の使い方の工夫を促そうという考えである。

 交通需要マネジメントの必要性は年々高まっている。なぜ交通需要マネジメントかというと、今や道路の整備・改良のスピードより自動車交通量が増加するスピードの方がはるかに速く、交通処理能力の拡大だけでは交通渋滞の緩和に限界があるからである。そのため、道路の利用者の交通行動の変更を促すことが必要となってくるのである。今後は、道路の整備・改良と交通需要マネジメントを平行して実施し、総合的に交通を管理・誘導していくことが必要となっていくのである。

 交通需要マネジメントは、道路利用者と公的機関からの要請により、交通需要マネジメント協会における@準備、A計画、B実行、C評価によって定着、拡大、展開されていく。交通需要マネジメント協会とは、商工会議所、地元商店街、企業、自動車ユーザークラブなどが会員となって、都市全体の交通需要マネジメントの円滑な実施を促進する組織である。また、公的機関は協会の外部から、あるいは会員となって資金援助や交通コーディネーターの育成などの技術支援により、協会を支援している。@では、道路利用者は、渋滞で困る場面の把握(場所、交通目的、時間帯)や、通勤、業務、来訪者の路用機関や経由などの確認をするなど、渋滞問題の認識をし、公的機関は、渋滞の場所、程度、時間帯や曜日・季節変動や、道路、公共交通機関の施設の状況など、渋滞状況を把握することにより、交通需要マネジメント協会が渋滞の原因分析をし、実施の合意形成を行う。Aでは、道路利用者は、企業や各種コミュニティーにおいて、交通需要マネジメント施策への参加意向調査や自動車を利用する理由などの調査・分析、また、参加形態や規模検討など、交通需要マネジメント施策への参加方法の検討をし、公的機関は、施策実施の効果予測、関連施設整備や交通施設運用計画の検討など、施策の実行性検討をして、協会で実行計画を作成する。Bでは、道路利用者は、フレックスタイムの実施、シャトルバスの購入、公共交通機関の利用などをすることにより、交通需要マネジメント活動へ参加し、公的機関は、パーク・アンド・バスライドの郊外駐車場の整備、道路交通情報の提供、路上駐車の規制など、関連施設などの整備などにより、協会での計画が実行される。Cでは、道路利用者は、参加者の規模、参加者のメリット、参加しない理由の調査など、交通需要マネジメント活動参加状況の調査をし、公的機関は、交通渋滞緩和の状況、渋滞が緩和しない箇所の原因分析、施設整備効果の分析など、交通渋滞状況の調査などにより、協会で施策の評価がなされることになる。(注9)

このように、交通需要マネジメントは、単に交通需要マネジメント協会だけがそれを行おうとしてもできるものではなく、道路利用者、公的機関、民間組織が全員で地域の道路渋滞問題に取り組み、相談・協力しながら進めていく必要がある。また、より多くの道路利用者の積極的な協力と参加がなければ効果はあがらないのである。

 

第2節 パーク・アンド・バスライドとは

 交通需要マネジメントのモデル都市をはじめとして、全国各地で交通需要マネジメントへの取り組みが始まっている。モデル都市とは、交通需要マネジメントの普及をめざして平成6年9月に建設省で制定された「総合渋滞対策支援モデル事業」において指定された全国10都市(札幌市、秋田市、宇都宮市、金沢市、高松市、豊田市、奈良市、徳島市、広島市、北九州市)である。(注10)

 パーク・アンド・バスライドとは、都心部へのマイカー通勤者が、郊外の駐車場でマイカーからバスに乗り換えて都心へ向かうというシステムである。このシステムは、マイカーからバスに乗り換えることにより、都心へのマイカー流入交通を削減し、自動車の量を減らすことによって交通渋滞を緩和しようということ、また、マイカー交通からバス交通への転換を図り、衰退の懸念されているバス交通の活性化を図ろうということの、2つの目的からなる。

 現在、全国各地で様々な実験が行われている。この中から、宇都宮市以外では、石川県金沢市と滋賀県大津市を例に取り上げてみたいと思う。金沢市は、交通需要マネジメント施策が進んでいる都市の中の1つで、現在でもパーク・アンド・バスライドをはじめとした様々な施策が行われている。

金沢市のパーク・アンド・バスライドは、過去2回の大規模な実験を行ったあと、平成8年11月からK.Parkと称して通勤用のものが本格化している。この金沢市のK.Parkのユニークな工夫として、郊外駐車場の確保の仕方があげられる。実験の段階などでは、普通、市が郊外に大規模な土地を借り、そこを駐車場として利用者は無料で車を止めることができるが、実際の導入となると駐車場を永遠に市が負担するとなると費用がかかり、実現は難しい。そこで、このK.Parkでは、平日利用が少ない郊外の大型スーパーの駐車場を、利用者が1ヶ月5千円の商品券買い上げによりK.Parkように使えるようにした。このため、利用者は駐車料金を払っているという感覚はなく、帰宅時にはその商品券を使ってスーパーで買い物ができるため利用者の利便性も高く、評判もよい。このK.Park実施後は渋滞が短くなり、通勤などにかかる所要時間も短縮される効果が見られた。(注11)

また、大津市の実験でも、大津港口交差点を起点とする交通渋滞が1150m短くなり、湖岸の商業施設における駐車待ちが1日あたり447台減少するなど、大きな効果が見られている。さらに、実験参加車両を周辺部でカットすることによるもの、渋滞待ちの減少によるもの、駐車待ち(アイドリング)の減少によるものの3つをあわせ、1日にドラム缶約16本分のガソリンに相当するCO2が削減され、(注12)環境に及ぼす影響も大きいことが分かる。

このように、パーク・アンド・バスライドというシステムは、交通渋滞削減に大きな効果があることが分かった。実際に、都心にマイカーを乗り入れることは、駐車場を探さなければならない、また、駐車料金を払わなければならない、料金が時間制になっている駐車場では、駐車料金を安く押さえるためにゆっくりできず、時間を有意義に使えないなどのデメリットがある。このような面でも、パーク・アンド・バスライドというシステムを利用することの意義は大きいと思う。

 

第3章 宇都宮市の交通需要マネジメント施策

第1節 パーク・アンド・バスライドについて

 パーク・アンド・バスライドは、交通環境や地球環境に大きな効果があることは分かった。では実際に宇都宮市でこのシステムを導入するとどうなるのか、効果は得られるのか、導入の際にはどのような課題があるのかなどを、各2回に分けられて行われた大規模な実験の結果から考察していきたいと思う。

 ()平成7年度の実験

 平成7年度の実験の目的は、システムの仕組みや導入効果、渋滞対策に対する有効性などについて広く社会的に認識してもらうことと、あわせてそれを確認すること、また、今後このシステムの実験可能性を検討する上での課題の抽出や必要な用件などを検討整理するためのデータや資料を得ることであった。このように、この実験は社会的なPRをかねていることから、郊外の駐車場を市が借りた、普段は走っていないバスの路線を追加した、バスの本数を増やした、快速バスを使ったなど、現実の導入の際のシステムとは異なり、非現実的な設定となっている。しかも、この実験は3日間しか行われず、実際にはイベント性が強かった。実験の概要は表1のとおりである。

実験の効果

() 交通環境への影響効果 (表2、表3)

@ 主要交差点における混雑状況の変化

 実験路線の国道123号線上の「平松交差点」「つくば銀行前」、及び平行する県道宇都宮向田線の「柳田大橋西交差点」「平出交差点」の計4ヶ所で交通量と渋滞長の変化の調査が行われた。この4箇所の朝7時から9時の都心方向への総交通量を見ると、1日約500台の交通量が削減された。特に、柳田西交差点では大幅に減少している。

 渋滞長の変化を見ると、国道123号線上の「平松交差点」では、ピーク時で約400m(実験前と比較すると半減)の大幅な減少が見られた。県道宇都宮向田線の「柳田西交差点」では、同じくピーク時で約200m(実験前と比較すると約20%減少)削減された。また、都心部内の主要交差点10箇所で調査した交通管制センターのデータをみると、「南大通り4丁目交差点」「今泉3丁目交差点」において、実験前と比較すると渋滞長が減少している結果となった。

A 交通手段別の所要時間と走行速度の変化 

 システムバス、路線バス、自動車の所要時間を、清原工業団地南部の清原南駐車場から東武宇都宮駅前までの約11km区間で計測した結果、システムバスについては3日間平均で約5分間の短縮(乗降時間を考慮すると約7から8分程度)、既存路線バス、自動車においても約2分から4分短縮された。また、システムバス、路線バス、自動車の走行速度をみると、いずれも実験前に比べ速くなっている。特に、システムバスについては、当初目標の表定速度20kmを上回っており、区間別では平松交差点から都心部で、マイカーより「2〜5km」速くなっている。

() システム利用者の評価

 「実験システムの満足度」、「今後の検討の必要性」、「本格実施時の利用意向」の3つの視点から総合評価をまとめた。

 実験システムの満足度は、「50%強」のモニターが満足しており、今後の検討の必要性では、「約90%」のモニターが必要性を認識している。また、本格実施時の利用意向は、「利用する・サービスによっては利用」を含めると、「約70%」となっている。これをモニター別の利用日数別に見ると、3日間とも利用したモニターの評価が「5から10%」程度高くなっている。

() システムの評価・要望

@ システムバスの評価 

 概ね60%強のモニターに「たいへん満足・満足」の評価を得ている。特に、快適性の評価が高くなっている。これは、ハイグレードバスを高頻度で直行運行したためであるといえる。しかし、通勤時の所要時間で「不満」と回答した人も20%弱いる。通勤総時間を比較すると、実験時のほうが5から15分程度長い。また、実験前のマイカーとシステムバスの所要時間を比較すると、システムバスのほうが平均で2分程度短い。約半数のモニターが、バス運行の遅れは5分程度が限界と回答している。

A 駐車場位置の評価 

 普段の通勤路線から離れている「清原北駐車場」の評価が低くなっている。また、駐車場までのアクセス時間が20分を超えると満足度が短くなる。

B 都心バス停の評価 

 バス停と事業所の距離別にみると、距離が近いほど評価が高い。また、過半数の利用者に「満足」の評価を得るためには、バス停からの距離が750m(徒歩10分程度)が限界である。

C システムの満足度に与える要素 (表4)

 実験システムの満足度に与える影響が大きい個別要素は、主に郊外駐車場の位置、システムバスの所要時間、システムバスの運行間隔、都心バス停の位置であった。システムの料金については、実験は無料で実施されたため要素として挙げられなかったが、本格導入の際には利用意向に大きな影響を与えるものと考えられる。

D システムサービスの改善 

 今後パーク・アンド・バスライドシステムの検討にあたって、優先的に改善が必要だと思われる主な要素は、システム料金の低減化、バス所用時間の短縮、駐車場の位置改善の3つである。特に、「バス所要時間の短縮」を第1位に挙げるものが多い。

 また、駐車場位置への要望は、主に自宅に近い、駐車場までの混雑が少ない、通勤経路の途中・迂回が少ないの3つが多く挙げられた。路線バスの利用条件は、主に速達性の向上、駐車場とバス停が近い、運行頻度の増加であった。

 

 第1回目の実験ではこのような結果が得られた。先にも挙げたように、この実験は社会的なPRのためのものでもあり、行政の支援も多く非現実的な要素が多かった。そのため、利用者の評価も全体として高くなっている。特に、バスに関しては、実験のための特別なバスサービスを用意したため、実際にはもっと評価も低く、問題点が多く挙げられるものと考える。また、料金に関しても、実験はすべて無料で行われたため、料金に関する利用者の意見は得られなかったが、これについては実際には利用者の関心は最も高いのではないかと思われる。実際に、今後の改善の項目の中で、第3位までを含めるとシステムバス料金の低減化を上げるものが、第2位のバス所要時間の短縮を挙げるものを100人以上も上回っている。また、駐車場に関しても、最も多い意見は自宅に近いことが他の意見の倍以上であるが、これと同じ位に料金に関する要望は高くなると見られる。

 しかし、この実験でパーク・アンド・バスライドというシステムを多くの人に知ってもらえたことの意義は大きいと思う。このような実験を行うことで、渋滞問題をより多くの人に自分たちの問題と捉えてもらうことが大切だと思う。

 

()平成9年度の実験

平成7年度の第1回目の実験の結果、渋滞緩和効果が明らかになるとともに、参加者からも高い評価が得られ、システム導入の必要性や意義が確認された。平成9年度の実験では、公共交通利用促進について、幅広く周知・啓発するとともに、より現実的な条件を設定し再度実験を行うことで、導入に向けての成立条件について多角的な検証を行うことが目的である。今回の実験では、駐車場料金、バス料金ともに無料で行った、快速バスを導入した、朝夕各4便の運行本数を追加したことの3点を除けば、比較的現実的で、システムの実現化につながりやすい実験環境となっている。また、モニターが日常的な生活スタイルのもとでシステム評価ができるよう、25日間という長期にわたって実験を行った。

実験の概要は表5の通りである。

実験の効果

() バスの運行とシステムの利用状況

@ バスの運行と利用状況 

 東部では、臨時快速バスがマイカーより旅行時間で2分、走行時間で3分速く、速達性が確保されており、バスレーンの効果が現れている。一方西部では、走行時間で見るとバスとマイカーは同水準である。一部区間が片側1斜線であり、速達性確保に課題がある。東部、西部とも、臨時快速バスは一般路線バスに比べ3分以上速く、速達性を確保する有効な手段である事が確認できる。

 通勤時は意識せずに来たバスに乗ったモニターが多いが、比較的快速バスを選択する傾向が強い。また、西部より東部のほうが快速バスの利用傾向が強い。快速バスの乗車人数は、モニターのみならず一般客も多く、特に西部はその傾向が強い。東部では、日を経るごとに一般客も増加傾向にある。

A 帰宅時の行動変化 

 都心部への立ち寄り状況の変化は、普段と比べて帰宅時に買い物などで都心部へ立ち寄る回数が増加したモニターは、全体の21%と、減少したモニターを大きく上回っており、通勤者の都心部での滞留時間の増加に影響を及ぼすことが分かる。しかし、特に変化しなかったモニターが73%と一番多かった。

 駐車場付近の立ち寄り状況の変化は、駐車場付近に商業施設のない鬼怒橋東駐車場と駒生第一駐車場は少ないものの、駐車場付近で買い物などをするモニターが多い。特に、スーパーの駐車場を利用した駒生第3駐車場では、約半数、直近にスーパーがある陽東駐車場では約3分の1のモニターが買い物をしている。

() 実験システムの評価

@ システムの総合評価 

 総所要時間に関しては、通勤時の総所要時間に対してたいへん満足あるいは満足としているモニターは、東部22%、西部26%であり、普通を含めると約60%となっている。帰宅時より通勤時において不満とする評価が多く、モニターは通勤時のほうがより速達性を重視しており、通勤時の総所要時間の短縮が課題といえる。

 駐車場での乗り継ぎ利便性の評価は、駐車場と郊外バス定款の距離が短い駒生第2(45m)駒生第2(30m)の評価が高い反面、距離が長い駒生第1(300m)、鬼怒橋東(130m)の評価が低いことから、郊外駐車場はバス停の極力近くに設置することが望まれる。

 郊外駐車場の評価は、東部では、国道123号線沿いの陽東は半数以上が大変満足、満足と評価が高く、旧道沿道の鬼怒橋東は不満も多い。一方、西部の駐車場は、大谷街道沿道の駒生第2、第3の評価が高く、特に商業施設を利用した駒生第3駐車場の評価が高くなっているのが特徴的である。

 以上3点の評価を踏まえ、実験システム全体に対して大変満足あるいは満足としているものは、東部、西部とも40%前後と高い水準といえる。ハイグレードバスを高頻度で直行運行した平成7年度の実験(東部方向で実施)の評価と比べても、評価の低下はそれほど大きいとはいえず、路線バスを中心とした今回の実験でも、全体として利用者から一定の評価を得たものと判断できる。

Aバスの評価 

バスの走行時間と定時性に対するモニターの評価は、臨時快速バスが高く評価されているのに対し、路線バスの評価が低い。

快速性についても同様に、停車バス停が少なく着席率が高くなる快速バスの評価が特に高く評価されている。

運行間隔、運行時間帯については、快速バスは朝夕各4便と少なく、帰宅時の最終便も20時であったことから評価が低い。

()システムの利用意向

@導入時のモニターの利用意向 

使用バスを現在の路線バスで現行の運賃とし、駐車場の位置を実験と同じ位置で料金を月3000円として、駐車場までのガソリン代とバス運賃は通勤手当として支給、駐車場代は自己負担と設定したうえで、システムを利用するとしたものは、東部10%、西部15%であった。サービス改善を伴えば利用するとしたモニターを合わせれば、70%程度となる。このように、導入時にはシステム設定の改善が望まれる。今回の実験モニター以外の非モニターについては、40%前後が利用したい、またはサービスによっては利用したいと答えており、相対的にバス利用者の利用意向が高い。

サービス改善を行えば利用すると答えたモニターのうち、60%から80%程度が快速バス運行を利用条件としており、快速バスの運行が大きなポイントといえる。次いで、駐車場料金の低減化、バスの所要時間の短縮が多い。東部は、最終バスの延長や駐車場位置の改善なども多い。(表6)

A本格導入のメリット (表7)

パーク・アンド・バスライドの本格導入によるメリットとしては、交通・環境対策への寄与が約70%と最も多い。直接のメリットとしては、事故の心配が少ない、運転負担軽減、経済的メリット、通勤時間の有効活用を挙げるものが多く、また、スーパーの駐車場を利用した西部では、買い物が便利と回答するモニターも多い。

()交通施策に対する要望

@今後のシステムの導入推進要望 (表8)

モニターだけでなく、マイカー通勤やバス通勤をする非モニターも含め、概ね80%が今後システムの導入を推進すべきであると要望している。しかし、マイカー通勤の非モニターは、約20%があまり賛成できないとしている。この背景には、マイカー通勤の便利さ、バスへの乗換えが面倒という声があると思われる。

A今後の交通施策のあり方 (表9)

今後積極的に導入が期待される施策としては、マイカーの使い方の工夫、新しい交通システムの導入、道路整備となっている。ハード整備より、ソフト施策の導入推進に大きな期待が寄せられている。

 

第2節       導入に向けての課題

以上のような実験結果から、導入に向けて自分なりに考える課題をいくつか挙げてみたいと思う。

(1)バス走行の課題

路線バスに比べ快速バスの評価がモニターには高かったことから、快速バスの導入を検討する。また、片側1車線の道路では、バスも渋滞に巻き込まれ、バスの停車によってさらなる交通渋滞が起きてしまうことから、バスの走行環境を確保するためには最低片側2車線の道路の整備が必要となる。また、せっかくバスレーンを設置しても、バスレーンに一般車両の割り込みや路上駐車が非常に多いことから、バスレーンの遵守を積極的に呼びかけることが必要となると思う。実際私も交通問題に関心を持つまでは、駅前大通りの1車線だけ色が違う車線がバスレーンだとは知らなかった。マイカー利用者にバスレーンの存在と意味を理解してもらい、バス走行環境確保のために協力してもらうことが必要であると思う。

バスより車を利用する最大の利点は、いつでも、どこにでも、好きな時に行けるということだと思う。しかし都心にバスで行って、郊外の施設にもバスで簡単に行けるということは宇都宮の路線バスでは難しいと思う。郊外施設から他の郊外施設までバスで行くということはもっと容易でない。バス路線そのものの見直しが必要ではないかと思う。

また、快速バスの評価がモニターのみならず、一般バス利用者に高く評価されていることから、快速バスの導入を検討する必要がある。特に、通勤時の快速バス導入が期待される。また、東部方面ではシステム利用の条件として最終バスの発車時刻の延長をあげるものが多いことから、利用者は多くないかもしれないが、バスの利便性の向上を図るために最終バスの発車時刻の延長を検討する必要があると思う。

(2)郊外駐車場とバス停位置

郊外駐車場は、アクセス時間が短いよう、また迂回が少なくなるような位置に設置する必要がある。郊外駐車場とバス停の位置の距離はなるべく短くなるように設置することが必要であると思う。また、敷地内や近くにスーパーなどの商業施設のある駐車場が利用者にとても好評であったことから、商業施設の駐車場を一部利用させてもらうことを積極的に検討する必要がある。さらに、雨天時の乗換えが不便にならないよう、屋根付きのバス停の整備が必要である。

都心のバス停は、バス停の位置やバス停の名称を統一し、利用者の利便性を向上させる必要がある。

(3)システム料金

条件付利用意向者の利用条件として、駐車場料金の低減化を上げるものが多かったことから、駐車場料金をなるべく安く押さえることが必要になると思う。これについては金沢市の例を参考するべきだと思う。

 

以上のような課題があげられるが、この他にももっと公共交通の利便性について知ってもらえるよう、広告、メディアなどを通じて積極的にPRすることが必要であると思う。交通需要マネジメント施策の進んでいる金沢市では、毎週月曜日を都心部へのマイカー乗り入れ自粛の日として、他の交通手段を選んでもらうよう、積極的に呼びかけている。(注13)

現在宇都宮市では、パーク・アンド・バスライドのシステムを導入するために、郊外の駐車場の確保など、積極的に動いている。郊外の駐車場は実験の結果などから、利用者の利便性を考えるとスーパーなどの商業施設の駐車場の一部利用が望ましい。しかし、駐車場を確保できたからといってすぐにシステムを導入できるわけではなく、バスが渋滞に巻き込まれず、快適に走ることのできる道路を整備することが必要である。それには、最低方側2車線の道路が必要で、そのうち1車線をバスレーンにするなどの工夫が必要である。しかし、車線を増やすなど、道路整備はそう簡単には着工できないことだと思うので、とりあえず方側2車線の道路から導入していくべきだと思う。

私は都心部へ買い物や映画を見に行く時などは、学校に車を止めてバスで行っている。これもパーク・アンド・バスライドの一つであると思う。やはり都心へ車で行くには駐車場を探す、またほとんどの駐車場の料金が時間性になっているので、時間を有効に使えないという大きな問題があるので、バスのほうが便利である。しかし、そのまま郊外へ行きたくなった時、特に宇都宮市は、郊外から郊外へのバス路線が少ないため、どうしても車が必要になってくる。そのため、一回駐車場に車を取りに戻らなければならない。

また、バス路線に関していえば、宇都宮のバス路線は必ずといっていいほど中心部をとおる。バス会社にとっては、採算の関係上集客率の多い中心部への路線を増やすというのは当然の選択であると思うが、中心部に用のない乗客にとっては、どうしてわざわざ混雑している市街地を通らなければならないのだろうと疑問に思うことがある。時には駅前の大通りなどではバスが何台も一つのバス停に連なっていることがあり、とても無駄に感じることがある。宇都宮環状道路が開通し、その沿道にはたくさんの商業施設や娯楽施設が立ち並ぶようになった。道路交通網の発展に伴い、バス路線を改めて検討していく必要性があるのではないかと思う。

パーク・アンドーバスライドの一つの目的は通勤マイカーを減らすことである。したがって、道路整備が進み、マイカーよりもバスのほうが速く通勤できるようになれば通勤目的に限ってはバス利用者が増えるであろう。しかし、パーク・アンドーバスライドの目的のもう一つは、公共交通の推進である。通勤目的に限ってのバスの快適さだけを求めていたのでは、全体としての公共交通の利用促進にはならないと思う。

 

第4章           今後の都市交通の課題 ―結びにかえて―

今後、都市の交通を考えるうえで重要になってくるのは、安全で快適で効率の良い交通システムでなければならないということである。都市の中枢機能や商業施設を郊外に移しても、それに伴った交通整備と組み合わせないとその効率や効果は非常に限られたものになってしまう。また、自動車での交通の便がよいからといって都市機能や商業施設を郊外に移していると、中心市街地が衰退し、都市全体の活力の低下が懸念される。本来中心市街地は「街の顔」としての役割を果たし、街全体のコミュニケーションを図る場所であり、中心市街地の発展に伴い都市全体の活性化が期待されるものである。

また、特に宇都宮市のような地方都市においては、自動車交通、公共交通が互いに共存できるような交通システムの整備が必要になってくる。道路の整備が追いつかないほどの勢いで自動車が普及している現在では、公共交通の活性化が今後の都市交通の進展を図る上で大きなポイントとなってくるのではないかと思う。

モータリゼーションの進展とともに日常の生活圏が拡大し、歩いていける距離の商業施設が少なくなって、自動車を利用できない免許年齢に達していない年少者、自動車の運転が難しくなった高齢者、自動車を持っていない人、体にハンディキャップを持つ人などの「交通弱者」と呼ばれるような人々にとっては、日常の生活にも困るというようなことが少なくない。そのような「交通弱者」といわれているような人々の行動の際の「足」を確保することが公共交通の役割の一つであると思う。また、交通において限られている都市の空間を効率的に利用することも公共交通の役割の一つである。都心部の交通を自動車だけで処理することは不可能であるし、できるとしても、効率的な利用方法ではないと思う。さらに、人々が交通を利用する際、利用者の利便性に合わせて自動車交通と公共交通を選べるようにし、自動車交通を減らすことによって交通渋滞を解消させるということも重要な役割の一つである。

渋滞の原因は一言では言い表すことはできないが、いくつかの要素が重なり合って起こるものである。そのなかに、公共交通が未発達であるという要素があると思う。そのため、交通渋滞対策には、公共交通の活性化が必要である。公共交通は、自動車交通と比べて利用者からの運賃が十分に採れるようでなければならない。かかる費用をある程度運賃でまかなっていかなければならないからである。そのため、宇都宮市などにおいては、利用者の多い都市部にバス路線が集中し、利用者の少ない郊外や夜などは路線も本数も少ないというようなことが起きるのである。しかし、公共交通は先にも挙げたように、「交通弱者」といわれているような人々を含めて、市民に対して平等な機会で一定のサービスを提供する義務がある。そのためには、多少不採算路線と思われるところであっても最低限のサービスの供給を行わなければならない。また、私達利用者側も、以上のような公共交通を整備していくための負担を負い、かつそれを無駄にしないように、自由な日常生活の中で交通手段の選択について努力していかなければならない。

公共交通が整って、都市の中で自動車交通と公共交通が共存するようになると、どちらかが強くなったり弱くなったり、または何らかの形で混雑するようになってくる。そして、その両者のバランスが上手くとられないために様々な問題が起きてくるのである。そのため行政は、利用者の利便性に立った都市交通問題の解決策が必要である。大都市に比べ地方の都市になればなるほど自動車の利用率が高くなっているのは、地方では大都市のように公共交通機関が発達していないために自動車に頼らざるを得ないのである。そのことをふまえ、交通渋滞対策における自動車交通の抑制が、そのまま人々の生活行動範囲の抑制につながっていくようではいけないと思う。

これからの都市交通のあり方は、自動車交通の重要の抑制とコントロールとともに、公共交通の維持によって、都心における交通の利便性の向上を図っていかなければいけない。それには、行政だけが動くのではなく、私達市民一人一人が互いに努力し、協力していかなければならないのである。

 

おわりに

私は今まで渋滞問題を考える時に、道路整備などでは解消できるものではないと思い、道路整備にかかる費用はとても無駄であると思っていた。しかし、最近通学途中に通る環状線と平成通りの交差点が立体化され、渋滞が解消されて、非常にスムーズに走れるようになったことで、道路整備の効果の大きさを実際に体験することができた。また、交通需要マネジメントを施行するにあたって、特にパーク・アンド・バスライドなどでは、バスが快適に走れるための道路環境整備なども必要である。このように、交通需要マネジメントは、渋滞問題に対するソフト面からの解決策であるが、道路整備などといったハード面での対策とも無関係ではなく、むしろ深く関係しているということがわかった。交通渋滞問題を解決するには、ハード面、ソフト面の両方のバランスがとられなければならない。

渋滞問題に限らず、幅広い意味での交通問題には数多くの主体が関わっており、さまざまな制約条件がある。そのような条件のなかで最善の方法を考えていかなければならない。  また、今回私は交通渋滞問題に着目したが、交通問題を考える際には、交通事故や道路建設、あるいは公共交通をいかに改善するかといった交通そのものだけに目を向けるのではなく、高齢化、外国人の増加、高技術化、女性の免許人口の増加などといったさまざまな社会の変化にどう対応していくかを考慮することが重要であり、またいろいろな立場にたって非常に幅広く物事を考えていかなければならない。そのためには私たち一人ひとりが交通問題を自分達の問題として認識し、改善に向けて努力していかなければならないのである。

最後に、宇都宮市役所交通対策課、論文作成指導にあたってくださった中村祐司先生にこの場を借りて感謝したいと思います。

 

注(1)越 正毅『車が変わる 交通が変わる』 日刊工業新聞社 1989年 3項。

(2)関東運輸局栃木陸運支局資料

(3)http://www.moc.go.jp/road/kanren/jroad/4.htmiE

 (4)関東運輸局栃木陸運支局資料

(5)平成4年宇都宮都市圏パーソントリップ調査

(6)栃木県土木部道路対策課『道』 1997年。

(7)宇都宮市役所交通対策課『パーク・アンド・バスライド実験結果の内容』199

   5年。 

 (8)http://www.kk.moc.go.jp/13-publish/13-1/9808/01-2.html  

(9)http://www.kk.moc.go.jp/road/TDM/TDM5.html

 (10)http://www.kk.moc.go.jp/road/TDM/TDM3.html

 (11)http://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/koutsuu/commute/trial/trial.html

(12)http://www.pref.shiga.jp/project/tdm/kekka/kouka4.html

 (13)http://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/koutsuu/commute/trial/trial.html

 

         

                       2000年1月1日

                宇都宮大学国際学部国際社会学科 行政学研究室

                        岡部 さおり