79日(月)

行政学演習 論文

 

 

 

 

 

『宇都宮ナイトライフ』

〜カクテルとジャズで街づくり〜

 

 

 

久保 映矩

齊藤 香織

早乙女 貴美子真玉橋 知香

松谷 愛

米野 祥誉

 

 

 

 

【目次】 

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・齊藤

第1章、宇都宮の観光動態・・・・・・・・・・・・・齊藤

              (1)観光客の推移 

(2)そこから見えてくる課題 

 

2章、ナイトライフの実現へT〜宇都宮カクテル〜

・・・・・・・松谷、早乙女、齊藤

 

(1)カクテルのまち宇都宮の実態、問題点          

(2)宇都宮市の取り組み〜カクテル倶楽部による町おこし〜

(3)今後の展開

 

3章、ナイトライフの実現へU〜ジャズのまち宇都宮〜

                                                                      ・・・・・・・真玉橋、久保、米野

  (1)ジャズのまち宇都宮の実態

  (2)宇都宮市の取り組み 〜ジャズのまち委員会〜・・・真玉橋

  (3)民間団体の取り組み 〜宇都宮ジャズ協会〜・・・・久保・米野

  (4)問題点と今後の展開・・・・・・・・・・・・・・・・・真玉橋

 

4章、 まとめにかえて・・・・・・・・・・・・・・・久保

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめに 

 栃木県は東京から約100`圏内に位置している。また、東北新幹線や高速自動車道等の交通網が発達していることも幸いし大都市圏からのアクセスが簡単で、日帰りも容易に出来るなど交通の面で地理的に恵まれているといえる。南は餃子で有名な地方都市宇都宮、西には世界的に有名な観光地日光がある。そのほかにも栃木県には日本有数の避暑地である那須や、鬼怒川温泉など多数の観光地が立地している。これだけの観光資源が存在している栃木県は立派な観光県といっても過言ではない。

 また、県の方針として平成13年に「新世紀とちぎ観光振興計画」[1]が計画され、「観光とちぎ」を実現するための方針が策定された。その中で宇都宮市をはじめとした県央地域[2]では都市型観光地の形成を提唱している。都市型観光とは宇都宮市を中心としてショッピング、食事、ナイトライフなどが楽しめる魅力的な都市を作るというものである。今ある宇都宮の現状ではどれも実現可能であると感じるが、さらに宇都宮の魅力を観光客にアピールする資源としてカクテルとジャズというすばらしい材料がここ宇都宮にはある。私たちはこのカクテルとジャズという2つの材料を宇都宮のナイトライフとして活かし、餃子だけにとどまらない観光地宇都宮のまちづくりとして提案していきたいと思う。

 

 

第1章、宇都宮の観光動態

(1)観光客の推移 

 まずは観光動態の把握としてここ栃木県にどのくらいの観光客がどの地域に毎年訪れているのかを見ていきたい。栃木県商工労働観光部観光交流課の平成17年度の調査によると[3]「観光客入込数は平成元年の約4,600万人から平成17年の7,490万人(前年度比較332万人の増。対前年比104,6%)と年々増加傾向にある。平成15年から調査方法が変更され新基準[4]での調査となったが全体の数自体は増加傾向にあると断言していいであろう。」とある。次に市町村別に観光客の入込数を見ていく。一番最近の平成17年度の資料[5]で見ていくと、「宇都宮市が1,360万人(県全体の構成比18.2%)と最も多く、次いで日光市が1,145万人、佐野市が677万人、那須塩原市が673万人、那須町の486万人の順となっている。この上位以外の市町村でも新たに観光資源と位置づけた施設の設置により20市町村で観光客は増加した。一方、真岡市、小山市、下野市等13市町村で観光客は減少したという結果になっている。この入込数を月ごとで見ていくと、やはり夏休みの行楽シーズンである8月が最も多く922万人(対前年比105,1%)、次いで5月の867万人、11月の708万人、10月の685万人と続いている。さらに平成17年度から新たに分類別での集計を開始したところ、前年と比較し買い物・食、行祭事・イベントなどが増加し、産業観光、スポーツ・レクリエーション施設と温泉が減少している。」ということだった。

では次に宇都宮市への来訪目的を見てみる。市の経済部観光交流課がおこなった調査[6]によると平成17年に宇都宮に訪れた観光客の来訪目的は1位が餃子、2位がショッピング、3位以降から飲食(餃子、カクテルを除く)、帰省・知人宅、まちなか散策と続いている。残念ながら今回注目しているカクテルとジャズはそれぞれ3%、1,4%という低い数値を示していた。しかし、来訪目的の上位を見ても都市型観光による来訪目的が圧倒的に多いと言うことが出来るだろう。

ナイトライフを楽しんでもらうためには是非宇都宮市に宿泊していってもらいたいところである。しかし過去の宿泊者数を見てみると平成17年の宇都宮市の宿泊者数は日光、那須町、那須塩原市についで4位で、その数は1028254人と前年比104,0%と増加傾向ではあるが栃木県全体では観光名所が集まる市町村には追いつけていない。

栃木県全体では観光客も増加傾向にあることは観光施設が豊富な本県としては喜ばしい結果だが、宇都宮で観光を考えたときには様々な課題が推測されるデータ結果となっている。宇都宮での観光を考えたときに、どのようなアピール方法でどのような観光イメージを作り上げるかによって結果は左右されそうである。

 

 

(2)そこから見えてくる課題 

これまでのデータから、宇都宮市における観光面での課題がいくつかうかがえる。

1にほとんどの観光客は栃木へ来る際、最初に足を踏み入れるのが宇都宮市であるにも関わらず、大多数の人が日光や那須などに流れてしまうことである。現状ではただの通過点とでしか捉えられていない宇都宮市にどのように観光客をとどまらせるかが宇都宮への観光客を呼び込む焦点となってくるであろう。

2に宿泊者数を増やすことである。市政研究センターの方の話では日帰りと宿泊したときとでは観光収入が4倍も違ってくるとのことであった。栃木県への玄関口となる宇都宮市では、交通の便利さ故の日帰り客も多いと推測される。また、「ビジネスホテルよりも観光ホテルの数が市内に少ないという現状が宿泊者数の伸び悩みに拍車をかけている」とのことでありまだまだ都市型観光地としてアピールしていくには課題が残る。ナイトライフを推し進めることで昼は餃子、夜はジャズを聴きながらカクテルを楽しみ宇都宮の夜を満喫してもらうようになれば宿泊者数の増加も見込めることが出来るのではないだろうか。宇都宮でカクテルとジャズを楽しんでもらえるような環境を作ることで都市型観光の一要素であるナイトライフを一層充実させたものに出来るのではないだろうか。

 

 第3に宇都宮に対するイメージを「餃子」から「餃子+α」にすることである。今となっては「宇都宮といえば餃子。」が全国的に言われるようになり宇都宮の観光目的の大部分は餃子が占めている状態であるが、カクテルやジャズ、大谷石など観光資源としてはまだ十分確立されていない部分をアピールしていけば宇都宮の更なる魅力を活かせよう。平成17年度の宇都宮への来訪目的としてカクテルは全体で3%、ジャズも1.4%と餃子とは雲泥の差である。この差を埋めることで餃子+αという宇都宮へのイメージを広めることができるのではないだろうか。

 以上の3つの問題点を解決する材料としてナイトライフの観光資源としてのカクテルとジャズによる街づくりを展開していきたいと思う。

 

 

2章、ナイトライフの実現へT〜宇都宮カクテル〜

(1)カクテルの街宇都宮の実態、問題点         

 宇都宮は、全国カクテルコンテストで日本一に輝いた優秀なバーテンダーが多数いる。また世界大会にも宇都宮から過去に4名のバーテンダーが出場を経験しているためカクテルの街と言われるようになった。さらに、カクテルというグラスの中の芸術とその魅力に惹かれてバーに通うお客さんの存在や、テレビ・雑誌・新聞などでカクテルを取り上げ宣伝してきたこともカクテルの街といわれるきっかけになっている[7]。宇都宮駅の西口地区には多くのバーが集約されている。誰でも気軽に入れるバーから少し洒落たショットバー[8]まで幅広くあり、自分好みのバーを探すといったバーめぐりが楽しめる。

しかし、宇都宮がカクテルの街であるという認知度[9]は、宇都宮市内では比較的高いのに対して市外では24.9%、栃木近県[10]の認知度は、平均約2.7%にとどまっている。このように宇都宮はナイトライフの材料としてカクテルがあるにも関わらず観光資源として十分生かされていない現状がある。

 

 

(2)宇都宮市の取り組み〜カクテル倶楽部との町おこし〜 インタビューを踏まえて

 前述した統計にも見られるように宇都宮がカクテルの街だという認識は薄い。このような状況に市ではカクテルによる街づくりをどのように捉えているのだろうか。この点に関して宇都宮市政研究センターと宇都宮観光コンベンション協会とのインタビューよりまとめてみる。

 現在、宇都宮市は「宇都宮カクテル倶楽部」という民間団体との協力でカクテルによる街づくりを行っている。カクテル倶楽部は市内のバー同士が集まってできた団体で市からの補助金も受けているいわば半官半民の組織である。このように民間団体と行政が協力することで行政だけに偏らない街づくりの形を目指している。また、市以外にも宇都宮観光コンベンション協会とも協力体制にある。カクテル倶楽部は現在27店舗が加盟しており定期的にイベントなどを開催している。また、カクテルに興味があれば一般会員として個人での参加も可能である。主なイベントは、年1回の「オリジナルカクテルコンテスト」やツインリンクもてぎで開催された「INDY  JAPAN 300MILE」でのカクテルブース設置、カクテルマップの作成・配布などである。この他にも平成14年にはJR東日本と連携し「カクテルツアー」というお座敷列車に乗って大宮〜宇都宮間をカクテルを飲みながら旅するという企画が実施された。特に注目すべきイベントとしては毎年行われている「オリジナルカクテルコンテスト」である。これはアマチュアからオリジナルのカクテルを募集し入賞した作品をメニュー化、カクテル倶楽部の加盟店で味わうことができるというものである。昨年のコンテスト参加者は150名程度であり参加者は毎年増加傾向にある。また今年からはコンテストをパーティ形式にするそうだ。そうすることにより、より多くの人々にカクテルの魅力を伝える場になるのではないだろうか。

しかし、課題は多々ある。まず、客層の狭さだ。客層のほとんどは20,30代の若い女性客や一部の熱烈なファンである。どうしてもお洒落で敷居が高いというイメージがあるためにほとんどの男性客は居酒屋に流れてしまう。これからはいかに男性客をはじめとした新たな客層を呼び込むかが鍵となるであろう。さらにカクテルはアルコール飲料であるためドライバーは敬遠しがちである。この点に関してはノンアルコールといった形でのカクテルの提供を試みている。

 また、宇都宮市内にカクテルのお店を出店する店舗数は増加傾向にあるにもかかわらず、カクテル倶楽部に加盟している店舗数は横ばいである。これは加盟していない店がカクテル倶楽部にメリットを見出せていない証拠ではないだろうか。確かに、店を持っている会員はイベント時には自分の店を閉めなくてはならないというデメリットも持っているが、カクテルを観光の目玉の1つとしてより確立させるためには、さらに多くの店舗がカクテル倶楽部に所属し、一丸となってカクテルをアピールしていくことが求められる。

 

(3)今後の展開と提案 

  宇都宮がカクテルの街であるということを認識してもらい観光資源として活用できるようにするために、私たちは既存の組織から突出したキーパーソンの存在が必要不可欠であると考える。カクテルの特性上、職人技が必要とされるためどうしても個人経営のバーになりがちであるため、個々のバーを結束させ、カクテルをより多くの人々に広めるという同じ目的を持ち達成するためには全体をまとめる人物が必要になってくると考えたためである。このキーパーソンの存在は宇都宮餃子が有名になったきっかけを作った要因にもなっている。みずほ総合研究所[11]では餃子がまちおこしに成功した要因を「ライバルでもある餃子店同士が、キーパーソンを中心として結束したことである。協働によるメリットがデメリットを上回れば店の意識も変わり、協力が得やすくなるため、この段階まで到達できるかどうかが活動の正否を分けるといえよう。」と記述している。これはどのような職種でも同様のことがいえよう。さらにカクテルによる街づくりの現在の状態は、餃子での街づくりの過程と酷似しているためライバル同士であっても結束することが要求されるだろう。

  以上を前提とした上で、身近なところから宇都宮がカクテルの街であると認識してもらえるように次のような四点の政策を提案する。

  1つ目はJR宇都宮駅構内に利益の追求のものではなくカクテルの宣伝効果をねらった立ち寄りバーを設置することである。カクテルマップを見るとJR宇都宮駅西口付近にはカクテルを扱うバーはほとんど存在せず、東武駅側に密集している。利用客の多いJR駅構内にカクテルに触れられる場所があることにより観光客を含んだ多くの人々にカクテルの街であると認識してもらえることをねらいとし、さらにノンアルコールカクテルも提供することでより広い年齢層へのアプローチが可能になる。このバーの特徴として数種類のみのカクテルを提供する。これはあくまでもお試し感覚にすることで他の店への入店を促す効果を持たせるためである。またこのことによってコストを低く抑えることが出来る。

     2つ目は、カクテル倶楽部加盟店を利用するとタクシーの割引券がもらえる等のシステムの確立である。宇都宮市の主な交通手段は自家用車である。電車などに乗って宇都宮に観光に来たバーの利用者は、必然的にバスやタクシーを使わざるを得なくなってくるが、バスの運行時間は非常に早い時間に切り上げられてしまうため利用者にとっては時間がネックになってしまう。このシステムを確立させることで利用客は時間を気にせず長時間の滞在が可能となる。ただしこのシステムを確立させるためには市の了解や、カクテル倶楽部とタクシー会社の連携が必要不可欠になってくるため検証が必要になってくるだろう。

  3つ目は、宇都宮ご当地カクテルの開発を企業と連携して行いコンビニやスーパー、駅構内や土産店等で販売することである。既にカクテル倶楽部が主催する「オリジナルカクテルコンテスト」ではその年の最優秀作品を宇都宮公式カクテルとして提供しているが、それは倶楽部加盟店舗のみで取り扱われているため大衆性に欠ける。カクテルを店頭で販売することにより身近な存在に近づけることがねらえる。

  最後は、カクテルゼリーを作り学校給食で提供することである。みなさんは学校給食に「ワインゼリー」と冠したぶどうゼリーがでたことを覚えているだろうか。私たちはそのネーミングに注目し、ノンアルコールのゼリーを「カクテルゼリー」と題して学校給食に提供することにより子供たちにも宇都宮=カクテルのイメージを持ってもらおうと考えた。

  宇都宮がカクテルの街であるという認知度は現在低いが、これから宇都宮の重要な観光資源としての地位を確立できる十分な素質を持っている。しかしカクテルは前述したように、時間帯や年齢層など客層を選んでしまう傾向にあるので、いかに他の観光資源と組み合わせてPRしていくかが課題である。

 

3章、 ナイトライフの実現へU〜ジャズのまち宇都宮〜

(1)ジャズのまち宇都宮の実態

 宇都宮は世界的に有名なジャズミュージシャンの渡辺貞夫氏を輩出している。そのほかにもタイロン橋本氏や高内晴彦氏など、日本全国で活躍するジャズミュージシャンを多く輩出していることをきっかけとして、「ジャズによる宇都宮市の文化振興を」ということで、平成13年市教育委員会内に「うつのみやジャズのまち委員会[12]」が立ち上がった。またその翌年委員会によって立ち上げられた「宇都宮ジャズ協会[13]」もジャズに関する活動を行っている。以来宇都宮市は同会を中心に餃子やカクテルだけでなく、ジャズによるまちづくりも推進している。

 しかし市に対するイメージ調査によると、「宇都宮はジャズのまちだ」という認識を持っているのは市外県民で24.9%である[14]。さらには栃木県以外の関東都県の平均値は4[15]と、その数値からみる知名度はまだまだ低い現状に留まっている。しかしこの調査母体は2040代が90%以上となっているため、実際の認識度はもう少し高いものになる可能性がある。

 

 

(2)宇都宮市の取り組み 〜うつのみやジャズのまち委員会〜

 では、実際に市はジャズによる文化振興をどのように行っているのか。うつのみやジャズのまち委員会所属研究委員の鈴木氏と近江氏とのインタビューをもとに、現在の同会の取り組みについて述べておきたい。現在うつのみやジャズのまち委員会による主な事業は、17年度では6月に「みやぎぐ」、6月〜9月に行われるストリートジャズライブ「みやサンセットジャズ」、8月〜10月に駅構内でジャズライブを行う「ミヤふれあいステーションjazz10月に「MIYA JAZZ INN」などである[16]。これらの事業は多少時期はずれても毎年継続して行っている。このほかにも、市民参加を促す事業として「ふれあいジャズセミナー」を開催したり、啓発活動としてホームページの作成、軽音楽活動全般へ後援・協賛したりと活動の範囲は広く実際は一年を通してジャズイベントを行っている。しかし同会は公の組織として意見する立場でありあくまで主導は民間であると強調している。

 予算の面では、設立当初から市の公金615万円を使用して3本の事業に取り組んでいる[17]。平成14年度に一度445万円と予算額の減少はあるものの、それ以降継続しては950万円以上の額で事業に取り組んでいる。しかし、予算の増額以上に事業数の増加も大きく、平成16年度には主催・共催だけで16本の事業を行っている。そのほかにも協賛・後援事業数が8本あり、そのため事業一本あたりの単価コストは14年から16年までの平均で32万円程度である。[18]

事業による集客も年々順調に伸びている。13年には約17000人の参加者だったものが15年度には約36500人になり、平成17年度には80000人を超え18年度には実数で115000人を超える結果を出している。また、17年度の「MIYA JAZZ INN」開催日では周辺商業施設であるTOBUの売り上げが10%増、マクドナルドでは400%増、近隣の商店街では午前中に売切れてしまった店もあったという。33年の歴史を持つMIYA JAZZ INNを始め、ジャズ事業は集客交流事業になっていると言えるそうだ。宇都宮のジャズは大きな演奏母体があるというわけではない分、有名プロミュージシャンや地元ミュージシャン間のつながりが強く、そうした強みを活かしたMIYA JAZZ INNのようなイベントを行っているという事もあり、「ご当地ジャズ」を特徴としているそうだ。

 

 

(3)民間団体の取り組み 〜宇都宮ジャズ協会〜

ここではジャズに関わる民間団体である宇都宮ジャズ協会代表鈴木邦乙氏への聞き取り調査をもとに、宇都宮ジャズ協会が設立された背景や関与している事業、鈴木氏のジャズに対する意見等を以下にまとめてみる。

 宇都宮ジャズ協会は200210月よりジャズのまち委員会から分化した民間団体である。ジャズのまち委員会はジャズのパンフレットを作成する際に、行政という立場上商売が基本である民間と多少のズレがあり、便宜を図る目的で分けられた。その構成はジャズクラブ・ライブハウス・スタジオ・ミュージシャンなど多様である。「宇都宮をジャズのまちに」というコンセプトがあり、そのためにジャズを毎日聞ける環境を目指しているそうだ。

 ジャズ協会が主催している主なイベントにジャズクルージングというものがある。これはイベント期間中であればその加盟する店舗に何度でも赴いてジャズを楽しむことができるというもので、宇都宮市以外では東京六本木や北海道などが行っていて宇都宮では3年前からスタートした。チケット販売には苦労したようだが、そのかいがあって一回目から盛況であった。春と秋とで年に2度、これまで4回のイベントが行われたが、チケットの売れ行きは年々増加傾向にある。夜にこうしたイベントが行われるのは宇都宮市だけであり、それが宇都宮ジャズの強みでもある。

 しかし鈴木氏はこの成功に甘んじてマンネリ化してしまうことを懸念しており、毎度ジャズ演奏者を変えるなどの工夫をしている。そしてこれからもそうした工夫をしつつこのイベントを継続させ、定番となることを目指している。ジャズクルージングのチケットの売り上げはそれぞれの店に同程度振り分けられるようになっており、その利点から協会に加盟している店舗は多い。ジャズ協会の他の事業として独自のコンサートの開催や、ミヤストリートギグなどへの後援などがある。

 宇都宮ジャズは認知度が低いことが課題とされているものの、行政がジャズによるまちづくりを始めたのは6,7年前のことである。今のところ、ジャズ振興の動きはいい方向へと向かっており、ジャズクルージングを通して高齢者を中心に幅広い年齢層においてジャズファンの増加を実感すると述べていた。

 

 

(4)問題点と今後の展開

 以上宇都宮のジャズを取り巻く環境を、インタビューを通して大まかに見てきた結果、現在のところジャズによる文化振興という目標に向かって順調に歩んできているようだ。

 しかし、ジャズによる街づくりということになれば少々問題あると言えそうだ。

 まず、普及してきているとはいえ、まだまだ宇都宮=ジャズの認識は高いとはいえない。認識を高めるためには広報手段も課題になってくる。インターネットは広報としては極めて脆弱な媒体と捉えているようで、コアなジャズファンのための確認媒体としか考えていないそうだ。こうした状況で今後注目されるのは駅の存在である。ジャズの認識が高い横浜駅は宇都宮と湘南新宿ラインで結ばれているということもあり、沿線上の駅でパンフレットの掲示・配布等広報活動を行ったところ、バスツアーの申し込みが予想以上に反応があったという。また広報に関連して新しい動きが512日から施行された旅行業法の改正である。これにより、保証金が600万円でも取得できる第三種旅行免許でも一般から参加を募る企画型募集旅行を主催できるようになったため、地域の観光協会などが着地型旅行を提案していけるようになった[19]。小予算での戦略的な広報が鍵となってくるなか、駅広報と組み合わせて駅からのバスツアーを多数企画するなどの事業が新たな広報となる可能性があるのではないだろうか。

 次に、プレイヤーや企画サイドの問題である。行政組織は縦割りの組織であるために広範なニーズにこたえる運営体制にないという。となるとカクテル倶楽部の章でも記述したように、民間団体の主導的なキーパーソンの存在は街づくりに不可欠である。ジャズのプレイヤー兼イベント企画者たちは高齢化しており、その上若いプレイヤーの企画参加意識も乏しいという問題がある。宇都宮大学から始まった学生団体F.U.S.Sの動きも長続きせず、ジャズと若者をつなぐ窓口が途絶えてしまったことも企画側の問題となるだろう。ジャズを広い世代に広げていくためには、若い世代や学生の企画参加は今後重要になってくるだろう。

 最後に、ジャズの商業性の問題である。ジャズは、集客力はあるが多くの利益が出せないものだ。現場サイドであるジャズ協会は、この問題をクリアし商業的な発展が見出せることで初めてジャズを継続性のあるものにできると考えている。一方、行政サイドであるジャズのまち委員会の事業は、ジャズに一般性を持たせるためのプロモーション活動だと考えているため事業自体は収益を上げることを目的としていない。こうした認識のギャップは今後ジャズを通した街づくりを進めていくのに問題となるだろう。ジャズ協会は収益性の問題の進展には市を始めとする周囲の協力が必要だと考えており、行政サイドが民間主導のジャズ振興を考えるならば、まずは今以上の行政によるバックアップという形での連携も必要になってくるのではないだろうか。

 

 

4章、 まとめにかえて

 

カクテルにしてもジャズにしても、第1章の宇都宮の来訪目的の数値の低さを見る限り単独では観光客の集客は望めない。そのためにナイトライフを演出する意味で共通するこの2つの観光資源をどのように一体的な資源とするかが焦点になる。

 その実現に向けて、まずジャズの近くにカクテルがある環境、あるいはその逆の状況を構築していかなくてはならない。宇都宮市民に独自の餃子文化が根付いているように、カクテルを片手にジャズを楽しむのが宇都宮流というような文化をつくっていってはどうだろうか。どちらかがかけていればもう一方がほしくなる、そういうスタイルが確立されればそれぞれに利益があるだろうし、全国的に見ても個性があり集客が望めるだろう。例えば駅にカクテルの店を構え、時おりジャズを流す。あるいはジャズのライブチケットにカクテルの割引券をいれることで双方の交流を図ったらどうか。

 また民間と行政の役割を今一度整理しておくことも必要ではないだろうか。民間でやれることは民間にシフトしていくことで担い手を民間主導としていくという点で鈴木邦乙氏と鈴木成昭氏の意見は一致している。民間へ移すことで、あれもこれも手を出すのではなく特定の分野に専念ができ、効率が上がる。行政は文化の振興の役割が強く、カクテルもアルコールを含む特性ゆえ推し進めにくい面があり、その意味で民間はより合理的に事を進められるのではという考え方もできる。

 全体を通して見て、学生がまちづくりに参加する意義は大きいだろう。まず若さは活気を生む。鈴木成昭氏はイベント運営者やジャズプレイヤーの高齢化を指摘し、さらにイベントに学生の参加がないことを嘆いていた。同氏は街中を使って学生が自己表現してほしいとミヤジャズインのプレイベントを学生に開放することも示唆しており、学生のまちづくりの担い手としての受け皿を用意してくれている。他地域出身者の多い大学生がそうした活動を通じて得た宇都宮の魅力を全国へ発信していくのもまた学生ならではである。

 地方が大都市と相対的に衰退していく時代の中にあっても、観光はそこに行く人が居さえすれば経済が潤う魅力的な産業分野である。宇都宮は観光において東京大都市圏という大きな市場に近接し、広範囲で見れば交通の便はきわめて良く、日光、那須の中継点的な役割であるとはいえ人の行き来が多い。餃子はまちづくりとしてはこの上ない成功を収め、多くの人が餃子を目当てに他地域からやってくる。こうした恵まれた環境にある宇都宮市は工夫一つで一大観光都市となりうる可能性を大いに秘めている。

4月より3ヶ月間、「いかに人を呼び込むか」という意識の下に調査、議論を重ねたが、民間、行政含め宇都宮市は私たちの想像を上回る次元でまちづくりを行っていた。その知識の差によって踏み込んだ問題点を指摘することが困難であった。12月に行われるまちづくり提案に向けて、まずはそのことを課題として、より具体的で、より現実に即した提案を考えていこうと思う。 

 

 



[1] 栃木県庁ホームページ『新世紀とちぎ観光振興計画』序章〜計画の策定にあたって〜

http://www.pref.tochigi.jp/kankou/plan/MOKUJILAST.html 

[2] 宇都宮市高根沢町、旧今市市、旧上三川町、旧南河内町、旧上河内町、旧河内町、    旧石橋町

[3] 平成17年 栃木県観光客入込数・宿泊数推定調査結果 

[4] 観光客入込数については、平成元年以来実施してきた調査方法について観光動態が多様化する中、現状を反映していない部分が見受けられてきたので平成15年から新基準(日本観光協会の全国統計基準)で調査している。

[5] 脚注3に同じ

[6]平成186月 宇都宮市経済部観光交流課「平成17宇都宮市観光動態調査報告書」

[7] H193、宇都宮まちづくり論集V P41 L,L15~22)より引用

[8] ウイスキーなどを一杯単位で飲ませるバー

[9] 脚注7に同じ

[10] 福島県、茨城県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県

[11] 2007425日みずほ地域経済インサイト 集客に成功した栃木県の2都市〜その要因と地域の変化〜 @餃子でまちおこし−「宇都宮餃子」

[12] うつのみやジャズのまち委員会 http://www.u-jazznomachi.com/alacarte.html

[13] 宇都宮ジャズ協会 http://www.ujazz.net/info00.htm

[14] 平成186月 宇都宮市経済部観光交流課「平成17年宇都宮市観光動態調査報告書」

[15] 脚注14より 算出

[16] 同脚注12

[17] 事務事業評価表 うつのみやジャズのまち委員会交付金 平成15年度

[19] 地元企画、着地型ツアー脚光 地域活性にも一役 http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/42589/